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笛を吹いて出会ったのは
22


台風のようだ、というのが第一印象。ゆっくりと舐るように進む大型の台風。タカもよく台風のようなやつだ、と言われるけれど、タカは小型で活気がある台風、というイメージがある。

「悪かった…!」

顔の前でぱんっと手を合わせて赤石さんは謝ってきた。

「いえ、大丈夫です…ちょっと、怖かったですけど」

苦笑混じりにそう言えば、赤石さんも苦笑した。
気が抜けたようにソファーにどすんと座る。ああー、と声を出してグラスを掴むと、残っていたお酒を一気に喉に流し込んだ赤石さんは、ぐっと目を瞑った。

「お酒飲み過ぎないで、て言われてましたね」
「ああ」
「そうやって返事も」

思わずくすくす笑うと、頭を軽く叩かれた。大げさに頭を抱えてみると、赤石さんもくっくっと低い笑い声を漏らした。

「あんなのは建て前だ。酒を飲まない私は私じゃないよ」

その言葉に妙に納得したのと同時に、また笑いがぶり返す。
会社でも、赤石さんはお酒好きで有名だ。飲み会の飲み比べに、いつも参加していて、男の人よりもたくさん飲む。そういう場でべろんべろんに酔う赤石さんを、私は見たことがない。
そんな赤石さんは、見たくないけど。

「彼女だったりしません?が、一番びっくりしました」
「…笹川は、そういうの平気か?」

いつにも増して静かな声だ。そんな不安気な声は、初めて聞いた。

「…平気というか、…」

京の顔がちらちらと頭の中に浮かぶ。
私がいま好きな人。どうしようもないくらい、突然、理不尽に泣いてしまうぐらい好きな人。好きな、女の人。
どう言葉を返すか、詰まってしまって、赤石さんはどうなんですか?と、質問に質問を返すまねをしてしまった。

「私は、女が好きなんだ」

赤石さんらしいまっすぐな、真っ直ぐ過ぎるぐらいな言葉に、私は驚きながらもああ、と思った。本当に、赤石さんらしくて。

「…いま、好きな人もいる。どうしようもないくらい、好きな人が」
「私も、」

勢いに乗せられて、好きな女の人が居ます、なんて吐露をしてしまった。
お酒の入ったグラスを両手で包んで、ちびちびと飲む。

「…そうか」

みんなそれぞれ、恋をしているんだと思った。私も、赤石さんも、タカや、きっと琴葉さんは景人さんに、あのバーの店員さんだって。鈍感そうな赤石さんだけど、さすがにそれには気付いているだろう。あの子のあの目は、姉に、友達に向けているものじゃなかった。
京も、こんな恋をしているんだろうか。
ふと時間が出来ると、その人だけが頭の中に浮かぶような、そんな恋を。

「色々と、うまくいかねえなあ…」
「本当に」


結局その日、私は赤石さんの家に泊まった。最近はお酒で潰れちゃって、寝落ちしてばかりな私だ。
翌日の朝、赤石さんが車で送ってくれて、私は自転車置き場に自転車を戻し、部屋に帰った。
もうお昼前だったので、左右の部屋はとても静かだった。みんな仕事に行っているはず。
学生は、もう夏休みに入る頃だと思うけど、先生の休みはどのくらいあるんだろう。
ああ、また京のことだ。
ベッドにうつ伏せに倒れ込む。

油断すれば彼女のことばかりになる頭に、ため息を枕に向けて吐き出した。




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あきゅろす。
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