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笛を吹いて出会ったのは
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引っ越してから3日目。笛を吹いた日の翌日。お隣さんとの最悪な(主に私の印象が)対面から1日経ったその日は月曜日だった。
特にゴミ出しの日でもない月曜日、私は普通に会社へ向かっていた。
ただ、ここから会社へ向かうのは初めてだから、いつもとは少し違う。
なんていうんだろう、新しい気持ちで、向かえるというか。

特に何もない道。
原付の免許は一応持っているし、自転車も今の家に置いてあるけど、あえてのんびり歩きながら景色を眺める。何もないわりに自然があるこの通り。人もあまり見かけないから、何も気にする必要がない。

「綺麗だなあ…てっ、うあ!?」

あー、今日も日差しが痛いなぁ、なんて夏を感じながらのんびり歩いていたのが悪かった。
手に持っていた鞄を強引に取られ、私の横を男の人が通り過ぎる。
あまりに突然過ぎて、私は呆然として立ち止まってしまい、そのひったくりとの距離がぐんぐん開いていく。
これはピンチだ。あの中には財布に家の鍵と大切な物が…。

「…あ、ちょっ、と! 誰か!」

叫べど止まる訳はなく、周りに人も居ない。
…走るしかない訳だ。

「待って!」

とりあえず叫びながら全力で走る。
この通りは抜けてしまうと大通りに繋がってしまい、人がわんさかいる所に繋がる。何故その説明を今するのか、ご察しの通り前にいるひったくりは、今まさにその大通りの人集りへ紛れようとしているのだ。

「誰かっ、その人捕まえて下さい!」

あぁせめて自転車で通勤すれば…。
ゆっくりとひったくりが人ごみに紛れていく。

「いってぇっ!」

これはもう諦めるしかないのかと思ったとき、男の人の叫び声がした。人ごみの中から聞こえてくる。叫び声が聞こえたと思われる場所の周辺の人が動きを止めた。まさかまさかなんて思いながら私も急いでそこに向かう。

「あっ」

その光景はどこか異常だった。
私の鞄をひったくった男の人がたった1人の女の人に押さえつけられていた。
女の人は後ろ姿しか見えない。綺麗な黒髪を後ろで緩く束ねた髪型。
すっとこちらを向いたその人の目元がきらりと光ったのは、眼鏡のせいだった。
ああ、この人は。

「これ、笹川さんのですか?」

運命的な1日振りの再開の仕方に胸をときめかせる間もなく、けれど、彼女が平然と私の名字を口にしてくれたことに嬉しさを感じずには居られなかった。





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あきゅろす。
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