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笛を吹いて出会ったのは
18



目を開くと、まずは暗闇が。目がそれに慣れ始めると、そこには最近見慣れ始めた天井があった。
昨日と同じように辺りを見渡してみれば、そこは私の家じゃなくて。
隣に、白い壁がある。それは、人の背中で、Tシャツだった。
ああ、京だ。今日は白いTシャツを着ていたのを思い出す。
じゃあ、ここは京の寝室な訳だ。
眠っちゃったんだなあ、私。ていうか、運んでくれたんだ。
うう…また人に迷惑かけた。記憶まで飛んじゃって…最悪だ。
好きな人の部屋で。
突然、あのときの京の言葉と表情が頭にふっと浮かんだ。
彼氏も彼女も居ないという言葉と、疲れた顔。
恋人は居ないと言っても、好きな人は居るんだろう。なんとなくそんな気がする。
まだただの推測でしかないけど、でも、…ああ、泣きそうだ。
もしもでこんな状態なのに、それが確実になったとき、私は大丈夫なんだろうか。


「ん…優美さん?」

不意に身じろぎをした隣の彼女から声が掛かった。隣というか真ん前から。いままさにこちらを向くため、転がろうとしている体を振り向かせないように、私は彼女の右肩をぐっと押さえた。

「えっと…ごめん、ね」

右肩にそっと右手を当てたまま、私は動かないでいた。
ごつごつしてない、華奢な、女の人の体。紛れもない、女の人の。
それが私の、いま好きな人の性別。
私はいわゆる両性愛者というやつだ。初恋は幼稚園のとき、幼なじみの男の子だった。
次は小学校の高学年のとき、女の子を好きになった。
どっちにも好きなんて言えないまま、私の好きは冷めていった。1人で始めて1人で終わる恋。
中学生のときに初めて人と付き合った。男の子とも、女の子とも。
なんて、回想してる場合じゃないかな。
お酒のせいか、暗い部屋のせいか、ベッドの上だからか、とにかく、私は泣きそうだ。
隣に京が居るのに、もしかすると、居るから、かもしれないけど。

「…気分でも、悪いんですか…?」

手が震えてます。
こっそりと彼女は私に伝えた。ここには私たち以外に誰も居ないのに。
緊張で冷えた心臓がどっどっと速さを増して、血液を体中に送る。意識させられてしまった震えも増して、私はとうとう額を彼女の背中に押し付けて目を閉じた。
何も楽にならない姿勢と状況だと思った。

「ごめん、なさい…私、…」
「大丈夫ですよ。何も、迷惑なことはありませんでしたから。むしろ楽しくて、優美さんは可愛いし」

くすくすと、触れている体が笑った。
そうじゃない。それもだけど、私が謝りたいのはそういうのじゃない。
私は京が好きで、好きで、でも、ああ私はずるい。
状況とか色んなものを利用して、彼女に触れて、近付いている私は、とても。

「…ありがとう」
「…あの、優美さん。…私、寝ちゃったらどんな音でも起きないんです。例え、誰の泣き声が聞こえたって。だから、…私、今から寝てますね」

最初、何の話かわからなかった。けど、たぶん、震えていたありがとうで泣きそうだと感づかれたんだと思って。

「うん、ごめん、ありがとう…おやすみ」
「おやすみなさい」

早口に、やはり震えた声でそう言って、私はより彼女にくっついて。
好きな人の隣で、その人のことを考えながら。
声を漏らさないよう、体と喉だけを微かに震わせて、私は泣いた。
ああ、恋愛って複雑だなあ。




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