笛を吹いて出会ったのは
15
朝のうちに洗濯だけ済ませると、あとは本当に暇になってしまった。
窓を開けて、扇風機を回して、クーラーを点ける気にはなれなかった。理由は特にない。
部屋着でごろごろして、適当に音楽をかけたり。ボリュームは小さめだけど。静かだからか、色んな音が大きく聞こえる。
隣からは全く音が聞こえてこない。京は部活で居ないんだろう。反対側の人は、まだ会ったことがない。
本当に静か過ぎて、よく言う、世界に1人きりになった気分。
時々通る車の音が私をそこから引きずり出してくれた。
お昼は適当なものを食べて、急遽お菓子を作ることにした。
京のところに行くのに手土産をと思って。食べ物を作るのに関してだけは、自信がある。
…ティラミスがいいな。
足りない材料は…仕方ない、買い物に行こう。
そうして勢いで作り始めたティラミス。
出来上がったあとは使ったものを洗って、あんまりに暇だから勉強をした。
仕事で持っているといい資格を取るための勉強を。
ずっとパソコンと睨めっこをしているような仕事で、でも視力は悪くならない。自分でも不思議だ。
ちなみに赤石さんはコンタクトレンズをしている。
ペンで本をとんとんとつついていたら、外からかちゃんという音がした。
京が帰ってきたようだ。
時間を見れば5時前だった。
6時半、ぐらいに行ったらいいかな。行く前にメールを送ろう。
勉強を続けて、予定の時間にメールを送った。すぐにいいですよ、と返事がきて、私はティラミスを手に家を出て、徒歩三歩で京の部屋の前に来た。
チャイムを鳴らす手が震える。ここまで緊張することないでしょうに。
ああ、何故かバレンタインを思い出す。ティラミスなんて、お菓子を持っているからだろうか。
そうこう悩んでいたら、目の前からがちゃりと音がして、ゆっくりと扉が開いた。
「優美さん?」
「は、はいっ!」
京だった。いや、京じゃないとおかしいんだけど。
年下の呼びかけに慌てて返事をする年上。
なんだか情けない。
私、京にかっこ悪いとこしか見せてない気がする…気がする、じゃなくて、そうだ。
「なかなかチャイム鳴らないから…どうかしました?」
「ううん、なんでも」
少しだけ開いていたドアが一気に開いた。
昨日の朝振り、の美人さんだ。私より10センチ背の高いその人を私は見上げた。眼鏡越しに目を合わせると、京は首をかくんと傾げた。
「ならいいんですけど…どうぞ」
微笑みながら、京は手で私を中へ案内した。その違和感のない仕草に心臓を刺激されながらも、私は中へ。
後ろで静かに、扉が閉まる音がした。
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