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笛を吹いて出会ったのは
12


赤石さんにお酒を飲みに誘われた週は、朝早くに出勤し続けた。何故か早くに目が覚めるし、京は毎朝料理をするから、その音を意識し続ける間は早く出勤することにした。仕事の進みがいつもより早かった。
そして金曜日の朝、以前通りの時間に目が覚めた。
準備をして、さあ会社に行こうと扉を開けて、かん、かん、かん、と階段を降りる。自転車置き場に着いたとき、頭上からがちゃりと音がした。そして続く、かんかんかんと急ぎ気味の音。

「おはようございます」

爽やかなあいさつは変わらないままだった。

「おはよう、京」

幾分か緊張しながら、彼女の名前の響きを意識しながら、あいさつを返した。
近付いてくる京に合わせて、顔を上げる。

「あの、優美さん」
「ん?」

どこか少し、緊張している顔がほんのちょっと近付いた。彼女が一歩足を踏み出したから。
なんでもないように返事をしたけど、心臓はとてもはしゃいでいる。自分の体じゃないみたいに、指先まで脈で震えて、もしかしたら顔が赤くなっているかもしれない。
だって綺麗な、好きな人の顔がこんなに近くに。

「明日、うちに来ませんか?」

そんなお誘いにすぐ、行く、と返事をしたのだから、私がどれだけ自分の欲に忠実かわかる。彼女を意識しないなんて頑張っていた私にさよならをした。

途中まで一緒に歩いて、この前と同じところで別れた。
久々に頭をくしゃりと撫でられて、手櫛で戻す間、照れて嬉しくて仕方なかった。本当に子供にでもなったみたいに。
タカが頭の中で、からからと私を指差して笑った。


「今日は一段とご機嫌だな?」

お昼休みに後ろから声を掛けられた。食堂でご飯を食べていた私の隣に、赤石さんはトレイを置いて腰を下ろす。

「そうですか?」
「ああ。ずっと下手な鼻歌を披露してるの、気付いてなかったのか?」

くっくっと低い声で笑う赤石さんにむっと来て、私は箸を進めるスピードを上げる。

「悪い悪い、笹川面白いから」

いただきます、と言って赤石さんはカツ丼を食べ始めた。今週はずっとカツ丼食べてるなあと思い出す。マイブームなのかな。

「今日の約束忘れてないよな?」
「覚えてますよ、ちゃんと」
「ならいいけど」

そのあとはちょこちょこと仕事の話をしながら、お昼休みが終わっていくだけで。
あっという間に午後が過ぎて行った気がした。
よし行くかーと赤石さんに連れられて、いつものバーに。昼はカフェをやっているらしいけど、来たことはない。
明日が楽しみで、赤石さんの言うとおりとてもご機嫌な私はどんどんお酒を飲んで。
赤石さんと、赤いような茶色いような曖昧な髪の色をした女の人?にもうそろそろ止めた方が、なんて言われたときにはもう遅かったらしく。

「赤石さん、大変、私、立てませんよ」

苦笑した赤石さんがちゃんと送ってやる、と言ってくれた。
その後の記憶は曖昧で、アパートが見えた頃に、私は力尽きたようだ。




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