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リクエスト・記念品
祈る



神様なんて、この世に居るのか。
居るならば、私はその神様に嫌われているに違いない。



10人目は、2つ年上の女の人だった。

首をさすってから私は服装を正して、自分の鞄を取り、彼女の家、マンションの一室の扉を開ける直前でさよならを言って、私は彼女から離れた。
冬の外は、やはり寒く。それに感化されるかのように私の心も急速に冷めていた。

付き合ってひと月、幸せで、だけど。内心、いつ首を絞められるんだろう。と、期待にも似た予感が頭を占めたりもした、ひと月。

仕事帰りの金曜日。夜の町を歩いていた所、声を掛けられた。その日にホテルへ連れられて、彼女は甘い言葉を私に囁きながら、冷めた目で私を抱いた。
人を上手く愛せないと言ったあの人は、私を深く愛した途端に私の首に手をかけた。
これが事の顛末。

やっぱりダメだった。


「…ただいま」
「おかえり」

金曜日の夜11時過ぎ。
現在高1の妹である秀は起きていて、ソファーに座りながらテレビを見ていた。

「泊まりじゃなかったの?」
「気が変わって。ホームシック」

笑いながら言うと秀はきょとんとした。

「ふーん?…あ、お風呂、沸いてるけどどう?」

喋りながら秀は視線をテレビに戻した。
心霊動画や写真を紹介する番組。
顔色ひとつ変えずに季節外れのそれを見る秀は、何か怖いものやことがあるのだろうか。
因みに。私はこの手の番組が大の苦手だ。

「秀は?」
「んー?」

秀が間延びした返事をした瞬間、その手元にある携帯が震えた。ジャズチックな曲は確かメールの受信を知らせたはずだ。
彼女は携帯を開きメールを確認すると、一瞬とても優しげに笑い、テレビのリモコンで番組を変えた。音楽番組が丁度始まったばかりのようだ。

「まだいいや。沙織先に入って。あ、お風呂出ても呼びにこなくていいよ。電話してるから」
「恋人?」

あんまり嬉しそうだから思わず口を吐いた。

「…後輩の女の子だよ」
「…そっか。じゃあ、先入るね」

とんとん、と秀が階段を駆け上がった。
…答えになっていない。あからさまな秀の動揺を久々に見た。

お風呂の支度をしに自室へ戻る。
湯船の横で髪と体を洗ってから、良い具合の温度をしたお湯の中へと体を沈めた。
先程の秀を思い浮かべて、ギターばかりしているものだから、思わず、この子も恋をするのだなぁと思ってしまった。私の高校時代、記憶の引き出しを漁っている間に私は何度か溜め息を吐いた。
学生の本分である学業面は、何不自由なくできていた。学年上位をキープし、たまに少し落ちたり。父と母は欠点をとらなければいい、というタイプの人たちだから私の点数にいつも喜んで"頑張ってるなぁ"と褒めてくれた。大学への進学も出来ただろうが、それより仕事をしたくて、でもなかなか決まらなかったから色んなバイトをしながら決めようなんて甘い考えで卒業した。
今は、パソコンとにらめっこの仕事に就いて、そこそこ安定した収入を得ている。
恋愛面は、ごちゃごちゃっとした。勉強面で少し落ちるときは、大体この辺りが関わってくる。
初めて私が人と恋愛的な意味で付き合ったのは、中3のとき。隣のクラスの女の子だった。
可愛くて、可愛くて。一目惚れ、私から。私も見た目はよく生まれて、色んなことを言われ慣れていたけど。自分以外の綺麗な人や物にはやはり惹かれる。それは見た目だけの話ではないけれど。
隣のクラスの友達と喋るため、というのを理由に私はその子を休み時間になれば見に行った。そのうち目が合うようになって、まず友達に。気が合うから、帰りも一緒になって。たまたま2人で帰った日、彼女の家に遊びに行って、そこで、目があった瞬間。
6月。雨音を背後に。
彼女の部屋でキスをした。
キスから始まるなんて。これぞ青春、という風に始まった私たちの恋は、彼女の手によって終わりを遂げる。

私の首に跡が出来た。人の手による。
生々しいそれはしばらく消えなくて。中3の冬、私は何日か学校を休んだ。
首の跡が消えるまで、休んだ。あの子も休んでいて、私が学校に再び登校し始めた次の日。彼女は私のクラスにやってきて、私を連れ出した。
ごめん。
しっかりと頭を下げた彼女を見て、私はもういいと、思わず彼女を抱擁しながら言った。もうダメだなんて大人ぶったのを覚えてる。友達でいようと約束して、だけど私は隣のクラスに行かなくなった。

あの時期の失恋は正直つらかったけど、私は志望通りの高校に入学した。今秀が通っている高校だ。

…そろそろ出よう。
湯船から上がった。


リビングには秀が居た。

「長湯だったね」
「そんなに入ってた?」
「1時間半」

思わず肩を竦めてしまった。時計を見ると、短針が1を指していた。
考え事をしながら入るのは危ない。通りでふらふらする。
「牛乳飲む?」
「…お水が良いかな」

秀がお水を取りに行ってくれた。
ああ。秀が妹でなければ、私惚れてたかもしれない。何気なく人を気遣える秀は、男女共に人望が厚そうだ。
…突然何考えてるんだか。頭の中がぐちゃぐちゃ。

「ありがとう」

差し出されたコップを手に取り、ゆっくりと水を飲む。
冷たくて、丁度いい。ひんやりと冷えたままのコップを首元に当てた。お風呂場で見たけど、跡は残っていなかった。

「あ」

秀が突然声を上げたので、思わず秀を見る。

「メリークリスマス」
「…ああ。メリークリスマス」

クリスマス。12月25日。キリストの誕生日。
…イブに別れちゃったんだ、私。本当なら体の火照りと気だるさと、色んなものと一緒にベッドの中で微睡みながら、彼女とクリスマスを迎える筈だったのに。
神様は、やはり嫌いだ。
約五年間にした恋愛は、全て同じ終わり方をしている。神様は、私で遊んでいるに違いない。

「明日、て言うか今日だけど」
「うん?」
「秀は出掛けるの?」
「…まぁ、うん。遊びに」
「そっか」

私家で1人か。

「沙織は? 恋人とか、そういうの」
「…昨日別れちゃった」
「…あー。ああ、うん。沙織でもそういうことあるんだ」
「そういう?」
「…失恋、とか」

たまに秀は酷い。

「あるよー。波乱万丈だね」

冗談めかしくそう言って、私は自分の部屋に戻った。

ベッドに倒れ込んで、目を閉じる。
考え事の再開。
私が神様を嫌っているから、神様は私を苛めるのだろうか。そんなくだらない話から始めてみる。しかしながら、それはどうもおかしな話だと思う。明確な理由はないけれど。
私が恋を知ってから、そう、あの中学3年生の初恋の後。あれから私がした恋だの愛だのという話が、私に、あと、彼女たちに与えるモノと言えば、一時の甘い時間と考えと、心を抉るような目に見えない傷と私の首への跡だけだ。
この自問自答だって、私は五年間に何度しただろう。
何度も何度も、もう誰かを好きになるのは止めようなんて思うけど。私は、私の見た目でもなんでも、私を見てくれて、私を愛してくれる人をたぶん好きになるから。愛がわかる。愛情というものを知っている人を。初めは、やはり見た目から始まることが半数以上だけど、それでも、確かに彼女たちから私は好意をしっかり感じた。だから、誰も好きにならないなんて無理な話。逆に惚れっぽいので、好きな人が居ない時期というのが少ない。
彼女たちが私の首を絞めた後。
我に返ったようにはっとし、絶望感漂う表情をする。昨日のあの人だって…。

私はその瞬間、急速に冷めていく。
私が付き合った人は、10人。遂に2桁だ。その10人の中で1人だけ、自分を保ちながら、私の首に手を掛けた人が居た。
その人が言うに、私を知れば知る程、いっそ命を奪いたくなるぐらい、私は人の愛情を歪ませるように、近くに居る人を魅了するらしい。
呪われてるのだろうか。
そうとしか思えない。もともと、神様なんて信じていないけど、でも、人の力じゃない何か、違う力が働いているとしか思えない。
不幸の末に幸せは、ある。
3人目以降、思っていたけれど。
2桁以降の今回からは、とてもそれを信じられそうにない。

首を絞められても、その手を放せない人に出会った時。私は、殺されるのか。
いや、でも、それは自殺に近い死に方だ。そんな死に方に惹かれる日がもし来たら。そんな死に方を出来る機会に出くわせば。私は、私は。
とても怖い。そこまで深く深く愛する人に出会ったとき、それを考えると何故だかとても怖い。

私の首でなく、私の手をそっと握ってくれる人に出逢えたら。

そんな、甘い甘い夢を見てみたい。
大嫌いな神様。誕生日に申し訳ないけれど、それぐらいいいでしょう。

いっそ殺してと思える程、素敵な運命の人に、夢の中だけでいいから逢わせて。

現実で逢うのは、まだ先で良いから。


祈るように自分の指を絡め、私はそう、クリスマスに思ったのです。

素敵なプレゼントは、いつ届くのか。
自分のそんな発想にくすりと笑い、ひっそりと私は、声を押し殺して涙を流した。











丁度1年が経った。丁度ということは、つまり、今日はクリスマスイブという訳で。この季節、独り身は少し寂しい。
今日は秀も、奈美ちゃんとお出かけで、そのうちどっちかの家に泊まるとでも言いに来るんじゃないだろうか。この前はうちに泊まりに来てたなぁ。あの時は可愛らしい2人に少しちょっかいを掛けてしまった。
…真理と孝弘も友達の家でパーティーらしく、そのまま泊まるそうだ。母は父の所へ向かい、この家には私と秀だけが居ることになっている。実際は、私だけなんだけど。

ふらふらーと、どこかへ行ってみようか。クリスマスイブに女1人で街をふらりと。
そんな思考の末、きらきらした街をふらふらとし、前の彼女と良く似た目をした綺麗な女の人に声を掛けられホテルへ連れられ、私も軽い女みたいに簡単に寝て、私はベッドの中で微睡んでいた。彼女は、とても遊び慣れているようで、だけど目はずっと冷めていた。
彼女から、私個人に対する好意なんて、当たり前だけど感じられなくて。
それなのに、私は何故か、既に彼女に夢中で。
一年越しに、神様は素敵な縁をくれたのだと気付く。

この人との間で育つ愛は、限界などなくて。この愛の期限は、私が死ぬまで。彼女が死ぬまで。
2人共が死ぬまでこの愛が有り続けたなら、それは私達にとっての永遠でしょう。
魅了し、魅了され、お互いに依存して、お互いに生かされて、同じ先を見つめる。ずっとそんな関係でいたい。

「沙織」
「はい」

しっかりと目を見詰めれば、珍しく美雪さんは頬を染めた。

「I love you」

私は呆然とする。
顔を逸らすその行為と、言語に英語を選択した訳が、彼女の照れ隠しだと気付いて、私は思わずくすりと笑った。
繋いだ手に力を少し込めて、"me too"と返せば、家に着くまで彼女は私と顔を合わせなかった。
時に、見かけによらず中学生のようなこんな可愛らしい事をする彼女が、好きで堪らない。
この人が生涯愛する人が、私だけだと嬉しい。深い独占欲が私の中を渦巻いて、だけど不安は襲ってこない。

もうクリスマスに願う事は何もない。

ただずっと、この人を愛していたい。
私が願うとすれば、何時までも、それだけだから。

そんなの祈るまでもないことだ。




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