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ごそごそと何かを探る音に目が覚めた。
覚醒を始める頭が、その音を作る人は1人しか居ないと告げる。
昨晩、平日にも関わらず我が家に強引に泊まった、私の相方以外には居ないだろう、と。
泊まる用意をきっちり持って学校に登校、そして放課後私の家に突入し、さっそくジャージに着替えベッドを占領した挙げ句、この部屋の主をごにょごにょして寝落ち、なんてことをしでかした彼女以外には。
そうと分かれば、私はゆっくりと音の方へ目を向けた。
「あ、え?」
思わずそんな言葉が口から飛び出したのも無理はない。
ジャージのズボンを履いて眠ったはずの彼女の足はそれを身に付けずに、丈の長い上の服が代わりに太ももまで覆っていた。
「ん? あ、おはよう」
白く眩しい太ももから視線を上げると、これまた眩しい笑顔が。
思わず眉を寄せたのは、緩みそうな顔を誤魔化すためだ。
「おはよう、…なんだけど、お嬢さん、なんで何も履いてないの…」
「ちゃんと下着履いてるよ?」
「あ、当たり前じゃんそんなのは!」
唯一足を覆っている服をめくろうとした彼女の手を、私はさっと押さえにベッドから飛び出した。
「ていうかさ、本当になんで履いてないの…」
「真面目にお答えしますと、紐を結ぶのが面倒だからです」
ああ、紐で締めるタイプな訳ね…。
この前見たときはきっちり履いてたと思うんだけどなあ。
きりっとした表情を作っていた彼女の口が、ぐにゃりと、今度はやらしく歪んだ。
「なに、今さら照れてるとか?」
「わ、バカ、」
私がそう叫んだ訳はその台詞のせいもあるけど、大体の割合を彼女がとん、と私のバランスを崩すために、いや、ベッドに倒れ込ませるためにした、肩を押すという行為が占める。
「昨日も楽しんだのにね。私と、2人で、この上で」
今さら照れてる、という訳をもっと詳しく説明したつもりらしい。
ぎっとわざとベッドを軋ませて、私を追い込む彼女の、この妖しい瞳がどちらか(大体の場合は私)が悲鳴をあげる前兆だと私は知っているけれど、私はいまだにそのことにも、彼女自体にも慣れてはいない。
「ち、遅刻しちゃいそう…ていうかさ、うん、絶対に」
「黙って」
すっと唇に触れた指は、物理的な意味以外にも私を静かにさせた。
遅刻確定。
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