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不可思議

元々、冷めた性格をしている私が誰かと好き合って付き合った所で、どうせ私は冷めたままなんだろうという事は分かっていた。好きだという気持ちは確かにある。残念ながら想いを測定する機械が無いから、どれほどのものとはわからないけど。少なくとも、その人が居なくなってしまったら、崖から海へとダイブする勢いはある。…例えの話だが。
今まで付き合った人達は男も女も、ホントに自分の事が好きなのか、と言って私をフっていった。原因はやっぱり、私の冷めた性格のせい。好きなのは好きなんだ。けど…相手が、それが友達としてのそれでも、自分のことを本当に愛してるってわかると、冷たい言葉を投げ掛けてしまう。バカ、嫌い、死んで下さい、とか…その他諸々。心にも無いことを言ってしまう。だから、人と付き合っても、たったの二、三週間でその関係は終わってしまう。おかげで私は友達も少ない。
私が俗に言うツンデレならまだマシなんだけど。私にはその、ツンは有ってもデレが無い。
でも、そんな私に今、異変が起きている。おかしい。大学三年生にして、おかしな異変が。

私には幼なじみが居る。彼女とは幼稚園の頃からずっと同じ進路を歩んで、同じクラスで、流石にそれだけ長くを共にしていれば仲も良い。

その彼女が、私の異変の中心部に関わる、重要な人物な訳で…どうしたものか、どうやら私は彼女のことが好きなようだ。そう思うにも、それなりの理由があってね。
最近、私は彼女の仕草一つ一つに心臓が反応してしまう。これは、今までに私が好きになった人への、私の反応。
おかしいのは、ここから。彼女が、友達として私のことを好きと言うことがある。これは、昔から言われることで、その度に私はバカと言ってそっぽを向いた。けど、最近…彼女に好きと言われる度に、素直に"私も"と言ってしまえる私が居る。その私の好きはlikeじゃなくてloveなんだと思うんだけど…どういうことだ?

「風〜香。なに考え込んでるの?」

来た。噂の幼なじみちゃん、亜紀が。今更だけど、ここは亜紀の部屋。"今日家に泊まりにこない?"って誘われて、一度は断ったんだけど、泊まらなかったら死刑って、とても素敵な笑顔で言われた。なので私は今ここに居る。
亜紀は飲み物とお菓子を持ってきてくれた。遠慮もなしにベッドに座っている私の横に亜紀は座った。

「別に…考え込んでなんてない」
「そ? ところでさ、風香の好きな人って誰なの?」
「ふぐっ…!?」

飲み物を口に含んだ途端の言葉。いきなりの話題に口からミルクティーが吹き出しそうになるが必死に飲み込む。
とにかく、落ち着け私。大丈夫。今から挽回すればバレることはない。よし、いける。

「す、すすす、好きな人なんか、居ないよバカ!」

ジーザス。ないだろ、どもり過ぎだろ、中学生か私は。そんな私をみて亜紀はぷっと笑った。

「あはっ、あんたってホントにウソつくの下手だね〜」

そんなにウケることじゃないだろう。亜紀は私のそんな思いも無視して手を叩いて笑う。

「笑いすぎ。一回死んで」
「もう。冷たいな〜。幼稚園からの仲じゃん。好きな人ぐらい教えてよ」
「イヤ。絶対に教えないから」

教えられるか。教えるってことは、告白するってことだぞ。…無理無理無理。

「教えてくれたら、私の好きな人教えてあげるのに」

フリーズ。…今、コイツは"私の好きな人"って言った?つまり、亜紀には好きな人が居るってわけ?

「亜紀、好きな人居るの?」
「居るよー? 私だって、女の子だもん。好きな人の1人や2人」
「バーカ。あんたは女の子って年でもないし、2人とかありえない」

なんとかそれだけ言う。何も言わないよりマシだ。勝手に1人で沈んでいくより、今だけは必死に自分のキャラを保たなきゃ。

「…やっぱ、風香ってウソつくの下手」

そう言った後に、亜紀がぎゅって抱き締めてきた。

「…ウソ…っ? …何も知らないくせに」

わかった風な口をきかないで。それだけで、ホントかどうかわかんないのに、亜紀の言葉もちゃんと理解出来てないかもしれないのに、それだけで、何もかもが溢れ出しそうで…溢れ出した物が、色んな物を壊していってしまいそうで。一緒に、涙も流れそう。
けど、一度零れ落ちた言葉は、戻すことなんか出来ないらしくて。どうすることも出来ない。自分で、ちゃんとした処理が出来ない。

「知ってる。風香のことはなんでもわかる」

亜紀は抱き締めた上から、手を重ねてくる。
嫌だ。何もかも。こんな中途半端な、友情って名の下に抱き締められるのも、亜紀には好きな人が居て、私はただの友達。私は男じゃなくて女で、亜紀が好きになる男じゃないことも。この、私にとっては中途半端な亜紀の優しさも。何もかも、嫌だ。

「わかんないくせに…っ。わかった風な口きかないでよ…」

もう、ダメだ。涙が溢れてきた。溜まりに溜まって、ついには頬を伝って流れ落ちる。

「ごめん…意地悪しすぎたね」
「え?」

憂いを帯びた表情。いつも調子に乗る亜紀にしては、スゴく珍しい表情だ。
亜紀が余りにも深刻な顔をするから、涙が止まった。

「…亜紀…?」
「風香」
「……なに?」

真剣な声色で、耳元で…名前を囁かれる。

「私さ…ホントに、風香のことはなんでもわかるんだよ?」

首に柔らかく回る手。それはとても温かい。

「風香の好きな人、誰か知ってるし…ていうか、最近気付いたんだけど…」

そう言う亜紀の体温が上がってるように感じる。体が大きく震えていて…これは、亜紀の鼓動?

「間違ってたら、鼻で笑って」

亜紀は一度大きく息を吸い込んで、大きく吐いた。つまりは、深呼吸。

「風香は、さ…もしかして、もしかして…私の事が、、好き?」

同時に、私と亜紀の心臓が大きく脈を打った気がした。

「……………」

なんて、答えたらいいんだろ…鼻で笑うには、沈黙の時間が長すぎた。…もう、正直に答えるしかないかな。

「あ、いや…この聞き方は、卑怯かな。…私のね、好きな人…誰だかわかる?」

恥ずかしそうに、亜紀が聞いてくる。ヤバい、なんか背中がざわつく。顔見えないけど、きっと私達顔真っ赤だ。

「……間違ってたら、鼻で笑って。…亜紀は、私の事が好き?」

最初と違って、私の方が落ち着いている。

「……うん…好き」

ぎゅーと、亜紀の腕に力がこもる。どくん、どくんと速まる心臓の動きが2つ、重なって…はぁー…キツい、心臓吐けそう。あの、あの亜紀が…私のことを好きって…それはきっと、恋愛的な感情のことであって、友情じゃない感情。私と同じって、ことだろう。

「……風香?」
「んー…?」
「これってさ‥ていうか、私達相思相愛?」

は、は、、恥ずかしいだろうがバカ野郎
そう叫びたい。
私はとりあえず、一度頷く。

「でも、私的に物足りない」
「…なんで」
「だって…風香から、好きって言葉を聞いてない」
「!?」

これは、言わなきゃいけないのか。頷いただけじゃだめなのか?

「ね、言ってよ。"亜紀好きだよ"って」
「ば、バッカ…!言えない」
「えー…納得いかなーい」

さっきまでの気弱な亜紀は何処へ?…でも、これは何か…しなきゃいけない?言わなきゃいけない…のか。

「ふーかぁ…」

ごね始めた…どうしよう、どうしよう、どうしたものか。

「早く、私に愛をくださ…んっ…」

何かほざこうとした亜紀の唇に、かすめるように唇を合わせた。

「………………」

唇に指を当てて硬直した亜紀。暫くすると俯いた…。

「…亜紀…?」

「ば、バカはお前だ、バカ野郎!恥ずかしいじゃん、嬉しいじゃん、ムカつくわバカ野郎!」

「えー…いいじゃん。甘い言葉より甘いキス。何、まだ足りない?私の愛を受け止めれなかった?」

さっきまで勝手なこと言うなだのなんだの言っていた私は調子に乗って、こんな風に亜紀をからかいだす。人のテンションはこんなにも簡単に変わるものなのか。

「ち、違っ…もう、バカ…よくわかったよ…」

「うん、それならいい。とりあえず、これからよろしくね、亜紀」

「うー…よろしく…」

赤面した彼女は少しだけ不満げだけど、私は満足気に笑った。
亜紀とは長い付き合いになるから、きっと、私の本能が素直にさせたんだ。
もしかしたら、これは運命だったのかも。なんて、私の脳は溶けた考えを持ち始める。とりあえず。これからもよろしく、亜紀。


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