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レモンではなく
「人ってさ、どうして心なんか持ってるんだろうね」
「…いきなりすぎない?」
友達の、いきなりの哲学てきな話への正直な反応。ついさっきまで帰りにゲーセン寄ってレーシングゲームやろうと話していたのだから、そりゃびっくりもする。
「んー、ふと疑問に思ってね」
「疑問、ね…」
「だってさ嫉妬とか、スゴく醜いじゃん」
「あぁ、まぁ」
熱弁し始めた彼女は止まらない。今日はゲーセンなしだろうなぁ…。
私は彼女の話を少し流しながら、今日の予定を組み直しはじめた。
「うー、なんとかしたい…」
「は?」
「私の嫉妬、なんとかしたい」
「…?」
誰への嫉妬だというのだ。
好きな人が居るとか、彼氏が居るなんて話は全く聞いたことがない彼女が。
いや、心当たりはある。
「だからね、あんたの周りに居る人、みんなに嫉妬してるの、私は」
だからね、って説明を始めた彼女に少しイラっとしそうになり、けれど、彼女の言葉を頭の中でリピートし直せば、まぁ、不思議な文章になってるじゃないか。
「それは…遠回しの告白?」
「…悪かったね、遠回しで。そうだよ、私あんたが好きなのっ!」
きっと、勢いとか意地で告白したぞ、コイツ。
彼女が私のことを好きなのは、少し前からうすうす気付いていた。気付けば、何年も前からモーションがあったのが、今ならわかる。どうも私は人の気持ちと自分の気持ちに鈍いらしい。
ちなみに、私がコイツのことを好きなのがわかったのは、たった今。
「……………」
しばらく黙ってやると、不安そうに眉根を寄せて、顔を真っ赤にして、今にも泣きそうな顔をしてる。
「…遠回しじゃなくて、ストレートに言って。じゃなきゃ答えてあげないよ」
えーっ、と、不満そうな声を出す。
それでも私はじっと待って、彼女はきっと、そのときの私の表情から結果を読み取ったのだろう。
一度私としっかり目を合わせて、とても優しい顔をしたのだ。
「…きで…」
「え? なんて言ったの?」
俯いてしまった彼女は、今度は勢い良く顔を上げて、
「好きなのっ、春夜が!」
そう言って唇を重ねた。…ファーストキスはレモンの味って、誰が言ったんだろう。とにかくその人は、個人的な感想を周りに広めたみたいだ。
初めてのキスは酸っぱくなんかなくて、それなりに甘い味で幸せとはこのことかとひとり哲学。
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