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「あー、暑い、ダルい」
「タルタルソースだね」
「…千香さ、それいっつも言うけど、面白くないから」

えー、と言う彼女は、その言葉のようにだらけて目の前の机に突っ伏した。
部屋のど真ん中に置いた大きな机は私のこの狭い部屋には似合わない。
そんな机の前に並んで座り、夏休みの課題を片付けるはずだったが、あまりの暑さにやられて、もはやシャーペンすら握ってはいない私と彼女である。
まだ焦る期間ではないので慌てない。焦る期間とは、もちろん8月31日その日だ。

「もー、ちゃんとしなよ。早くやっといた方が楽だよ?」

ただ1人しっかりしている人が居る。
私たちの真正面に座る人はしっかりシャーペンを握って、癖になっているだろう眼鏡をくいっとあげる仕草をしながら苦笑いをしていた。

「相変わらず委員長っぽい。今日から優真のこと委員長って呼ぶことにする」
「いやいや。普通にゆまとかゆーまとかで、「委員長! うわ、優真にぴったり! 二学期やれば?」

むくっと起き上がった千香が笑顔を浮かべ、優真の方を見ながらそう言うと、やらないから! と、あちらは苦笑いしながら言った。

「似合わないよね? ひな」
「え、ぴったりじゃん?」

私も笑いながら答えると優真は少しムスッとして、唇も少し尖らせた。
かわいいー、と、千香と2人で笑えば優真はもう、と眼鏡をくいっとあげて唇はそのままに宿題へと意識を戻した。
隣の千香は悪戯な、だけどどこかうっとりとした表情をしていたように思う。
今日はずっと、そんな表情をしている千香。
私はすっと、1人立ち上がる。
宿題に意識を向かわせている2人を見下ろしながら、

「…ちょいコンビニ行ってくるけど、なんかいる?」
「レモンティー!」
「一緒に行こうか?」

そう言った後の2人の反応の差に笑ってしまう。

「ううん、1人で行くから優真は勉強しといて」

丁寧な優真に後で宿題写させてね、と言うと、優真は自分でしなさいと笑った。

「んー。じゃぁ、…ミルクティーお願い」

携帯と財布を持って、私は部屋を出た。
出る間際、ドアが閉じる寸前、千香が優真の隣に行くのが見えた。

…なんで気遣ってんだろ。馬鹿みたいだなぁ。

本当に欲しいなら、さっさと手を伸ばせばいいのに。
千香も、私も。

入道雲のてっぺんよりも上にある太陽を、指で作ったカメラに収めてみた。
私も、あれだけ図々しく有りたいものだ。

じりじりやかれて、どこか痛い。




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