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probably both



路地裏にいる私たちの方をふと見ては、見なければよかったとでも言いたげに、眉を寄せて私たちを無視する大通りの通行人。
きっとみんな私を男だと思ってるからそうなんだ。ふと見ても、私が女だとわかる容姿をしていたら、人はもっと私たちに興味をもつのかもしれない。どーでもいいけど。
高校生男子の平均的な身長を持つ私は、服装まで男のようで、私と彼女はぱっとみ高校生の男女だ。
目の前の彼女は、ちらりと自分の顔の横にある私の腕を見てから私を真っ直ぐ見上げた。
それからはっきりとした発音で言葉を発する。

「なんなの?」

夜、大通りを歩いていた所、いきなり肩を掴まれて腕を引かれ、路地裏に連れ込まれた訳だから、口調が刺々しくなるのは仕方ないんだろう。

「まだ好きなんだけど」

私がそう告げると、彼女は眉を寄せて私から目を反らした。

「…ふったのあんたじゃん」

私からふった。
付き合って2週間、頭がおかしくなりそうなぐらい幸せだった。だから、怖くて。1度離れてみた。
そうしたら。

「紗由なしじゃ私無理そうなんだよね」

離れてひと月。私の頭の中は紗由でいっぱいで。
だから、と繋げようとした私の唇を紗由が塞いだ。左利きの彼女は、左手の2本の指で。

「ひとつだけいい?」
「うん?」
「…これが最後だからね」

目を伏せながら、彼女が静かに笑う。
肩に置かれた左手を取って、薬指の付け根に口付けた。

「約束する」
「…相変わらず気障な人」
「嫌じゃないんだよね?」
「私だって流華が好きだからね」
「…キスしてやろうかここで」
「してもいいよ」
「面白くねーの」

屈んでキスして、そうしたら静かに腕を回す紗由はとても優しい人なんだ。それはそれは、優しすぎるぐらいに。

二度と離せないな。
静かに呟いた。
私の恋はこれが最後。
静かに呟いた。

どっちが呟いたのか。
きっとどっちも。

溺れているのはどっち。



probably both





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あきゅろす。
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