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流れ



あれは、もう2年も前になるんだろうか。中学2年生のとき、それと3学期だったはず。いや、2学期だったかな。
記憶があやふやだ。ピースすら朧気で、手に取って引っ張ってくるなんてもっと無理な話。
でも、こんなもんでしょ?
誰かを好きになったときなんて。

私は、いつの間にかその人を好きになっているタイプ。他にタイプがあるのかどうかは知らないけど。お互いが共有する時間が、した時間が、いつの間にか私の中でとても大切なものになっている。そんな感じ。
けど、これは話が違ったなー。
まさか女の子を好きになるとは、そのときの私には想像がつかなかった。それまで好きになるのは同年代の気さくな男の子ばかりで、女の子は友達にしか居なかった。

話は更に遡るけれど、小学生のとき。
私は、俗に言う女の子のグループに属さずに、ふらふらふらふら、あちらこちらとうろついていた。
休み時間になれば女の子の友達がわざわざ私の席まで来て話をしてくれた。
昼休みになれば、男の子たちにも交ざってたくさん遊んだ。小学生のときだから、大した力の差なんてなくて、男の子よりも喧嘩が強かったから、あまり暴力を振るわないように気を付けた。
ただ、球技は別だったな。顔面セーフなんて言う素敵なルールまであったから。

恵まれていたんだ、環境に。自分から動かずとも、後ろに付いてくる人が居たし、前を歩いてくれる子も居たから。
グループという存在は、誰かに言われるまで気付かなかった。それぐらい優柔不断な私だ。
誰か1人に必死に引っ付く必要がなかった。みんながみんな、私を気にかけたから。

今思えばあれは、子供故の独占欲だね。
ある1人の子を私の物に私の物に。偶然、私がそのある1人だっただけ。無意識に孤独であろうとしたから、そうなったのかも。

そんな感じだった小学校を卒業し、そんな感じで中学1年を全うし、そして中学2年生で、初めて固定のグループに属した。


綺麗で、可愛くて、明るい子。
名前は早瀬 紗夜。紗夜。
今まで私の隣を独占しようと必死だった子たちと何が違ったかなんてわからないけど、とにかく、初めて自分から友達になりたいと思った。
私がある1人の子を独占しようと必死になる番。

そして、なかなか自分からはすることがなかったスキンシップを私からしていた。椅子に座った私の足の上にその子を乗せて、後ろから抱き締めるとひどく気分が落ち着いた。安心した。けど、妙な高揚感もあったから、それには戸惑った。

中学2年生、1学期。6月の末。
私に彼氏が出来た。隣のクラスのとても優しくて、話しやすい、素敵な人。
あの子は、その人が嫌いらしいけれど、おめでとうと笑ってくれた。
私は、何故かずっとこの人と付き合っていくんだなぁと思っていて、でも、私はその人と別れた。何が原因? なんて聞かれると、とても困る。人には言ったことないけど、頭の中であの子がちらつき始めた。これはダメだ、と思って、夏休みの終わり間近に別れを切り出した。彼は、なんで、と言ったけど私は黙りこくって、だって言えない。
他人には、飽きたから、と言ってごまかした。

優柔不断なのは、いつまでも変わらない。

綺麗に笑うあの子を頭の中で浮かんでは消して、浮かんでは消して、私はあの子に触れたいのに触れられないようになった。
グループに属すことを覚えた私は、前のようにふらふらすることが出来なくなって、でもやっぱり、彼女から離れたくないというのが、離れない一番の理由だろう。彼女が近くに居る限り、離れない。
自分の欲に忠実な私です。

きっちりきっかり、私の頭が彼女を好きなのだと理解して認めたのは2学期だったようだ。必死に記憶を手繰り寄せれば浮かぶものだね。

そんな調子のまま、彼女は私の変化に気付くことなく、中学2年生を楽しんだ。


心臓と肺がある場所が、痛んだ気がした。

中学3年生。
彼女とクラスが離れた。
彼と同じクラスになった。

クラスではまたふらふらするようになった。クラスの中心にあり、クラスの端に居た。たった十分の休み時間はクラスの人に囲まれて、昼休みには彼女のクラスへ入り浸り、話をして、放課後は彼女と一緒に家路を辿る。そんな生活が始まった。話すだけで、笑顔を見るだけで幸せで、でもやっぱり辛かった。
優柔不断な私が見つけた、唯一の絶対。私の世界の中心は常に彼女だけ。


さて、やっぱり彼は良い人で、前の通り私と話をしてくれた。どうやら、好きな人が出来たようだった。誰? と、簡単に聞いた私は後悔することになる。
彼は彼女が好きだと言う。
相変わらず爽やかな涼しい笑顔で、照れた顔をして、頬を染めて口元を緩めながら、紗夜が好きなんだと。

叫びかけた、目を見開きかけた、空気を呑んだ、深呼吸を地味にした。

へぇ。

それが精一杯。

彼が彼女を好き、なのは別に良いんだ。初めて考えた、もしも彼女に、紗夜に好きな人が出来たら? 若しくは、既にいるかもしれない。
徹底的に彼に未練がない私には少し笑えた。

結局、彼は彼女に告白をした。
彼女は思った通り、それを断った。嫌いだと言っていたのをよく覚えている。彼の落ち込みようは半端なく、数日間学校に来なかった。

時間はそこから少し進んで、中学3年生、3学期。だいたいの人が自分の進路に向けて受験勉強。私と彼女も例に漏れず、そうだ。
ただ、というのも変だけれど、彼女と私の進路先は違った。
いや、それは結果論。彼女と私の第一志望は同じだったけど、彼女は第2志望の高校に行くことになった。

彼女の方が悲しいはずなのに彼女は笑って私におめでとうと言ってくれて、私が呆然としていた。


入学式。
楽しくなかった。嬉しくなかった。何人かの人が私に声を掛けてくれたけれど、私は1人も名前を覚えていない。
彼女が居ないのだ。たった2年の付き合いからの彼女への感情が、私の中では大きなものになっていた。
入学式の後、次の土曜日。私は彼女の家に走った。会いたくてたまらない、いつもは自転車でものんびりしている私が、全力で自転車を漕ぐ様はとても格好いいと言えたものではなかっただろう。

インターホンを鳴らして出て来た彼女と目が合った瞬間、私よりも先に彼女が飛び付いてきた。驚いた私は、でも、すぐに背中へと腕を回してきつくきつく彼女を抱いた。

何ヶ月か振りに、紗夜に触れた。

そのあとは前の通り、私から一定の距離を体と体の間に取ったけど。

ふざけながらは、触れる。例えば横腹をつついたり、首をなぞったり、たまに彼女が妙な声を出すと背筋がぞくぞくして、彼女に申し訳なくなったり。
駄目だな。
私は、彼女とどうなりたいんだか、わからないよ。
付き合いたい、というのはよくわからないけれど。隣に居たいと思うのが付き合いたいと一緒なら、そうなんだろうね。はっきりと言えるのは、この好きという感情が確かだということ。ただ、彼女が誰かを想う姿だけは黙って落ち着いて見てられないんだろうなとは思う。

高校に入ると流れが早い。
先を見る必要性や、特に恋愛沙汰、急流のように、人が岸から岸へと泳ぐことを許さない速さで、それに人は流される。

隣の女の子が小さな声で彼氏が出来たと報告してきた。
その子はどことなく、彼女に似ていて。あの子も、こんな風に隣の席の人と話すのだろうか。恋人が出来れば、こんな風に笑って、幸せそうな顔をしながら、…私に話すのだろうか。
私はこの子に対してと同じように、彼女にも笑って良かったね、なんて言える自信が全くない。

土曜日と日曜日はだいたい私と居る彼女は、まだ彼氏という人は居ないようだ。
恋や愛だの、そういう話はあまり彼女としたことがない。彼女がそういうことに興味がないだけかもしれないけど、この流れに彼女が乗ってしまったら。行動派で明るく優しいあの子は、あっという間に私との時間を削るようになるのかもしれない。

考え出したら泣きたくなった。
ただただ不意に、こんな風に考えてしまったときは、いつにも増してあの子に触れたくなる。

まだ、居ないんだ。
いつかは、誰かが彼女の隣に居るようになって、私は友達として彼女のそばに居ることが出来るだけ。

それまではさ。
それまででも、私だけが彼女の隣に居たいと思う。

触れていたい、触れて欲しい。
紗夜の考えを知りたい、私の考えを知って欲しい。
声を聴きたい、聴いて欲しい。
名前を呼びたい、呼んで欲しい。
そして。
紗夜の中での一番で居たい。
いつまでも私の中での一番で居て欲しい。

したいと欲しい、どちらも難しいことばかり。


溢れて私を満たして、息と一緒に私から出て行こうとする気持ちが、いつかきっとそうして私の周りをこの空気と同じように満たしてしまうんだ。
それに私は溺れて、彼女を抱き締めてしまうんだろう。


一番、誰にも代えられないと思った人は、私の手が全く届かない人でした。


けど、こんなに大きな、人を愛しむこの気持ちを、私にくれたあなたを私は好きで、そしてあなたに私は感謝しています。

高2になっても高3になっても、大学生になっても仕事を始めても。あなたに子供が出来て、私がおばさんになって、あなたがおばあちゃんになっても。


きっと一生言わないからここでだけ。

ありがとう、大好き。





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