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気付かない変化




「未来、行きやしょう」

『え?行くって…教室で食べるんじゃないの?』

「ちょいと話があるんでさァ」

『わ、分かった…』















空に歌う
16:気付かない変化


















お昼ご飯の誘いを受けたものの、てっきり教室で食べるのだと思い込んでいたあたしは弁当用のミニバッグを机に置き、そこから弁当を取り出そうとしていたところで総悟からの言葉。


総悟ファンに目撃されたくないのが本音だが、話がある、ということは恐らく人目のないところへ行くのだろう。


…まあそこに向かうまでの所を見られると少し面倒な気もするが、それくらいなら大丈夫、かな。…でも二人でご飯片手に歩いていたら一緒に食べることなんて安易に予想ができるような。


そんなことをぼんやりと少しだけ考えていると、頭の上に軽い重力を感じて上をむけば、総悟は二、三回あたしの頭をぽんぽんと叩いた。




「俺、売店でパン買ってくるんで先に行っといてくだせェ」

『あ、うん』

「ん、屋上で」

『ありがとう』

「何がですかィ?」

『わっ』

「ばーか」



あたしが考えていることを読み取ってくれたらしい総悟は、屋上で、というところだけを小声で言う。
礼をのべれば頭に乗せていた手で髪の毛をぐしゃぐしゃにするとそのまま教室を後にした。

…なんか、悔しいけど総悟がモテるのちょっと分かる。




(……あ、)




開いていたミニバッグのチャックを閉じて、携帯とそれを持ち屋上に向かうべく席を立って、そこで思い出す。


授業が終わった瞬間に食堂へと向かって行った神威が「食堂行ってくるネ」とあたしに言っていたということを。




(あー……まあ、いっか。)





暫く考えてみたが、特に誘われた訳でもなければ約束をしていた訳でもない。というか、何であたしがあいつのことを気にかける必要があるんだ、という思考に辿り着き、屋上へと向かった。


















扉を開くと何故か山崎君と入れ違いになり、目があった山崎君は一瞬目を丸めたが「なるほど、」と小さく呟くとにっこり笑ってその場を立ち去った。

中に入ればそこには既に座り込んだ総悟の姿が。あれ、やけに早かったな、なんて考えたが総悟の隣に置いてある大量の焼きそばパンを見て直ぐに理解した。

おつかれさまです、山崎君。




『パン買ってくるとか言ってたじゃん』

「(山崎が)買ってくるって言いやしたねィ」

『…かわいそうに』




人気の焼きそばパンをこんなに沢山買ってこれるなんて山崎君は何者だ。こう言うのも何だが、彼にはパシリの才能がなかなかあると思う。




『…神威にまで目をつけられなければ良いんだけど。』

「…また神威」

『え?』

「…何でもありやせん、はやく食べやしょう」




独り言をもらせば総悟がそれに反応したようだが聞き取れず、流されてしまったので大したことではないだろうと自己完結して総悟と向かい合うように座り込む。



『話ってなに?』

「あー…未来、」

『んー?』

「お前神威のこと好き?」

『んぐっ!?ごほっごほっ』

「大丈夫ですかィ?」

『顔がぜんっぜん心配してないよ総悟!!』




口に運んでいた卵焼きを驚いて丸呑みしてしまい慌ててお茶に手を伸ばす。

ちらりと見えた彼はそれはそれは楽しそうにそう言った。
こんなところでサドを発動させるな、残念だがあたしはマゾでも何でもないので嬉しくない。そういうことはさっちゃんにして欲しい、あの子なら喜ぶから。そうすれば両者とも幸せ、一件落着じゃないか。




「俺は嫌がる顔が好きなんでィ。あいつは論外」

『心読まないで』

「声に出てやしたぜ」

『まじでか』




ついに読心術も取得したのかと思いきやただ単にあたしが声に出していただけらしい。こほん、咳払いをして座り直す。視線を総悟に正せば綺麗な瞳と絡み合った。




「…なんでそうなるの?あたし別に神威のことなんて何とも思ってないし、…っていうかむしろ苦手」

「でも、あいつといる時の未来はやけに楽しそうに見えやす」

「そんなことないよ」

「そうですかィ?」

「そうだよ!」




じっくりと真偽を見極めるようにあたしから視線をそらさない総悟の視線を感じながらも、何故かそちらを直視することは出来ない。目の前にあるお弁当に視線を落とすと風がふいて髪が乱れた。




「あいつと、神威と、あたしがどうかなったりなんて、ありえないよ、」




自分に言い聞かせるかのように呟いた言葉は、風に飲み込まれてしまったのではないかと思ったが、しっかりと総悟の耳に届いて。

暫くしてあたしにずっと向けられていた視線を下ろすと静かに口を開く。



「…神威の前では素で接してるのに?…神威は全部知ってるのに、俺は、何も知りやせん」

『え…』




今度は此方が視線を総悟に向けるが、相手の瞳と絡み合うことはない。

その瞬間、ばん、と大きな音が響いてピンク色とむかつく笑顔が視界いっぱいに広がった。




「未来みつけちゃったー。」

『…神威』

「あり?総悟も一緒だったんだ」




入ってきた時点で気付いていたであろう総悟を無視してあたしに話しかけてきた神威。総悟が声をかけると、わざとらしく言ってのけた。それに苛ついた様子で眉間に皺を寄せる。




「大体さー未来はオレと約束してたんだよ?それなのに勝手に持ち出してくれちゃって」

「あれは約束とは言いやせん。一方的な会話しか出来ないなんて馬鹿丸出しですねィ。俺が持ってきたんで、邪魔しないでくだせェ」

『っていうかあたし物じゃな…』

「うるさいなあ、それ以上言うと、殺しちゃうぞ?」

「倍にして利子付きで返してやりまさァ」

『…ねえ、聞いてる?』



先程までのシリアスな雰囲気はどこへやら。今にも殴り合いそうな二人の会話に入ることは許されず。諦めてのこりの弁当に箸をつけた。

どちらも引く気はないらしく神威は相変わらず威圧感たっぷりのにっこり笑顔。総悟はサディスティックな嫌な笑みを浮かべながら言い争いを続ける。

似たもの同士とはこいつらのことである。



残りの弁当を全て食べ終わればそれを片すと、未だ終わりそうにない言い争いに溜め息をついた。


総悟を見ると、先程の言葉が頭に浮かぶ。
珍しく小さな声だったので聞き取りにくかったが、確かにその言葉は、あたしの触れて欲しくないところを指摘していて。



総悟は、あたしが隠し事をしてるって気付いてる…?



考えてみたが、とりあえず今はこのよく分からない争いに巻き込まれないようにそっとこの場を後にした。
















「あり?未来は?」

「あ、」





















(結局総悟は何が知りたかったんだろう…やけに焦ってるみたいだったけど)











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総悟さん焦るの巻
なにこれ総悟夢??

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