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愛暴の勧め
03

「何、ですか」

頭を押さえてガードの姿勢を取ると、ウィッグを無理矢理取ろうとはせずに見詰めてくる。

「捜してた」
「どうして」
「ねえ。先生と内緒で付き合わない?」

悪戯を仕掛けるような笑みを浮かべながら言葉は淡々と紡がれた。

「俺男ですよ」
「知ってる。君格好良いもんね」
「からかわないで下さい」

距離を取ろうとしているのに全く怯む様子を見せない相手は、槙に詰め寄る形で更に密着させてくる。

「ふぅん。初(うぶ)なんだ。お兄さんが全部教えてあげるよ」
「結構なんで」
「最初は俺が女役やってあげるし」

太股に置かれた手が意思を持って動こうとする。
振り払うように立ち上がって逃げようとすると、手を掴まれて引き止められた。

「少しもその気にならない?」

強引に壁に押し付けられて囲われる。
近い距離に思わず鳥肌が立つ。

「気持ち、悪い」
「それはショックだなぁ」

全然そんな風には見せない口振りに苛々として。
そしてふと触れた、首筋に生暖かい感触。

嫌悪が一瞬で身体を突き抜けて衝動的に足を踏みつけていた。

「いっ…!」

そのまま蹴飛ばすと間合いを作る。痛みに悶えている男に拒絶を吐き出す。

「触んな」
「酷い…な。本当にノンケなんだね…って三嶌君?」

何とか少年が見上げた時にはもう、槙はその場から駆け出していた。






怒りと困惑と吐き気で考えは纏まらない。
知らない相手から齎(もたら)される体温は感情より先に身体が拒絶反応を起こしていた。
一刻も早く日常に戻りたくて兄の姿を探す。



「…槙?」

職員室へ向かって歩いていた依鶴を見付けると、槙は全力で駈けていた足を緩めて顔がよく見える所まで近寄って行く。
見慣れた姿にほっと肩の力が抜けて崩れ落ちそうになる。

「どうしたんですか」

依鶴は弟の様子がおかしい事に気付くと、近くを通った教員に声を掛けて書類を机に置いてもらうよう頼む。
槙の顔を上げさせようとしてその身体が僅かに強張っているのを見逃さなかった。



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あきゅろす。
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