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愛暴の勧め
01


上島達の部屋から抜け出して、半ば呆然としながら三嶌はとぼとぼと自室へ向かっていた。

二人の関係はどうなっているのか。
一瞬上島が脅されているのかと頭を過ぎったものの杞憂だと上島の反応を見て分かった。
やるって言葉の意味は、あの首筋に埋まる姿で大凡(おおよそ)予想が付く。

ぐるぐると考えを巡らせていると下を向いていたせいで人と肩がぶつかってしまった。

「すいません」

一応謝って隣りを通り過ぎようとするけど、何故か腕を掴まれて足を止めた。

「ちょ…ちょっと」
「はい?」
「君どこの子。こんなイケメンいたなんて知らなかった」
「……言ってる意味が分からないので。失礼します」

今それ所じゃない。
上島もそうだけど姫路も普通の性癖な筈で。男からの告白を気持ち悪いと一蹴していた現場も目撃してる。
上島のごめん、が頭から離れない。

「名前は?名前位教えてよ」
「…三嶌」
「ん、三嶌って」

部屋に戻って一人になりたかった。
次に会った時どんな反応をすれば良いのか。傷付けるような事は言いたくないし、深く聞いても良いのか立ち入らない方が良いのか。

素っ気なく呟いた名前を繰り返す男は何か考え込んでるようだったが、それに気を取られる事も無かった。
後ろから回された腕によって。


「何やってるんですか。槙」


聞き慣れた声に抱き留められたかと思うと肩を引かれて白衣に顔を押し付けられる。

「私の部屋はそっちじゃないでしょう」

兄貴とそんな約束はしてない。どうしたのかと声を出すより先に反応したのは絡んで来た男の方だった。

「…三嶌、先生」
「申し訳ないんですが軟派は止めて下さいね」

笑っているのに冷たい声。
男子生徒はそんな彼の姿を知らなかった。笑顔に怖さを感じて肩を震わすと一瞬躊躇ったものの頭を下げて駆けて行く。

「何なんだよ…」
「それは此方(こちら)の台詞です。髪はどうしました」

言われてハッと気付く。頭が軽い。



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