愛暴の勧め 01 夕暮れの校舎に伸びる複数の影。 足音も疎(まば)らにそぞろと歩くその姿は異質なものだった。 誰一人口を開かず、利き手にはだらんと武器が備えられている。 停学中である彼らの動向は誰にも見付かる事なく、静かに行われようとしていた。 「上島ー!」 「んー?なに」 「見て、これ!俺、なんか、どうしよう!」 「落ち着けって。どうした?」 「ラブレター!」 「ああ?」 「ぎゃーみったん怒んないで!!浮気なんてしないよ!呼び出し受けたんだけど、どっどうやって断れば良い?ねえねえ」 「青海(あおみ)。捨てろそれ」 「…スルーで良いんじゃね?」 「みったんー…上島ぁー」 光井(みつい)が怒るのも久しぶりに見るな、なんてオレンジジュースを飲みながらテレビのチャンネルを変える。 まあカップルはカップル同士どうにかすんだろ。 「つかそれ誰から?」 「分かんない。名前知らない。なんか話し掛けられずにずっと見てたとか何とか」 「ストーカーみたいで気持ち悪いな。一人で断り行くの怖いから付いて来てほしいんだろ?」 「う、上ちゃん…!」 「危なそうな奴だったら怖いし。すぐ先生呼べるように近くにいてやるから。で、どこに呼び出しされたの?」 「旧プール場の前。今日の夕方6時に来てって…」 思わず顔を見合わせる。 屋外に設置されたプール場は運動場を越えてビニールハウスを越えた場所にある。 最近ではやはり立地が不便と言う事もあって新しく建設した屋内プールを使っている。その為、旧プール場は殆ど人が近寄らない。 人目に付きたくないにしても、校舎からも寮からも遠過ぎる。 「それ変じゃない…?」 「だから嫌なんだって」 6時まで後少し。考える時間は少ない。 [次へ] [戻る] |