言葉に出来ない
16
「お前、まだ続いてんの」
ふと。
段々酒の肴も尽きて来て何となく聞いたんであろう疑問には少し反応が遅れた。
「シュウヤ?だっけ」
彼の名前を聞くと一瞬鼓動が跳ね上がる。
他の人から名前が出るとまた違った感じがしてどことなく落ち着かない。
「…続いてるよ」
真宮は割と柔らかい思考の持ち主で男同士の付き合いに最初こそ驚いていたが、俺が彼と付き合っていても咎めたりは一度も無かった。
「最近は?ちゃんと話してるか」
以前電話で話した時に行動する時間帯が合わないと漏らしたのを気にしてくれていたらしい。
「少しならな」
「んー…少しか。何か寂しいよな。一緒に住んでるのに」
「確かに、寂しいな」
「お前にはもっと良い奴いるよ!って言ってやりたい所だけど。好きな気持ちが簡単に無くなるなら苦労はしないしな」
神妙に頷く真宮が可笑しくて、真宮の過去の恋愛に話を向けるとまた色々と思い出を語ってくれた。
「じゃあまたなー」
「今日はありがとな。楽しかった」
「俺も楽しかったわ」
また会おうな、なんて。未来に自分がいる言葉に胸が締め付けられる。
真宮にも言えなかった。いや、言いたくなかった。
言葉にしたら本当に最後になってしまいそうで未だ否定していたかったのかも知れない。
真宮が後ろを向く前に、口は自然と動いていた。
「真宮!お前に会えて良かった」
会えて良かった。
恥ずかしさをかなぐり捨てた言葉で、純粋な気持ちだった。
「何だよ改まって恥ずかしいな。俺も篠原に会えて良かった!大好きだぞ篠原ー!」
「何だそれ」
二人で顔を合わせて笑って、まだ酔いの残る真宮を危ないからと部屋に帰す。
名残惜しそうにしていたけど風邪を引かせたら明子さんに怒られそうだと言うと大人しく戻って行った。
みっともない姿を見せなかっただけ合格だろうか。
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