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言葉に出来ない
14 友人



彼に対する愛情まで無かった事には出来ない。
擦れ違っていても同じ空気を吸って、同じように生活をして、たまに重なる時間で話をして、全部、忘れられない記憶で。
夜景を見ている時たまにやって来て煙草を吹かす彼は、何も言わず隣りに立っていた。
その距離が心地良かった。
愛を囁かれる事が無くてもそれだけで満たされた。


「悪い…」
「……」
「少しだけこのままで」

背中に腕を回して良いのか躊躇う位ならこんな事口に出さなければ良いのに。唯、支える為に添えられた手が離れなければそれで良かった。














駅前21時。仕事が終わった友人との待ち合わせは早めに着いていた。
携帯電話のディスプレイが着信を伝えて光る。前を見れば耳に携帯を耳に当てている友人が目に入って声を掛けた。

「真宮」

受話器越しと生の音声で真宮と呼んだ男は高校からの付き合いで、自分に気付くと駆け寄って来る。

「篠原、久しぶり。お前早いな」

懐かしい顔だと思う。

「まあな」
「店どうする?飲み屋じゃうっせーか」
「取り敢えず禁酒してるから」
「禁酒ってお前元から大して飲まねーじゃん。そうだ、俺んち来るか?嫁さん今友達と旅行行ってるから俺の料理だけど」
「ああ。明子さん元気してるんだな」
「おー元気元気。あいつから元気取ったら何が残るんだって位な」

照れくさくて素直に惚気られない友人の話を聞いていると自分にも優しい気持ちが移って自然と笑みが浮かぶ。



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