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言葉に出来ない
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「篠原さん、篠原さん、聞こえますか」
「起きて下さい篠原さん」

耳元で聞こえる声に驚いて目を開けば、医師らしき人物と看護士らしき人物が自分を囲んで立っていた。
腕から管が伸びていて口の周りは血で濡れていて見慣れない天井がやたら気になって。

「手術が終わりましたよ」
「あ…」
「危なかったんですよ。出血が中々治まらなかったので──」

どういう状態で危険だったと詳しく説明してくれているのに、全く頭に入って行かなくて。

「──大学病院の方に係っているようですね。このまま入院の手続きを」
「すみません。帰ります」
「何言ってるんですか」
「帰ります。ありがとうございました」
「駄目ですよ!まだ安静にしていて下さい!」
「帰らせて下さい」

彼に会わないと、会わないといけないのに。

「時間が無いんです。……帰らない、と」

こんな事で言い争っても仕方ないとは分かっていても、どうしても、ここで入院してしまう訳にはいけなかった。

上体を起こして白衣の医師を見やる。彼の服は自分の命で赤い花を咲かせていた。
余命が後どれ位かは分からない。分からないから立ち止まる事が出来ない。

気力を振り絞って掠れる声に力を込めた。

「輸血が終わったら失礼します」

後一時間もすれば終わる量だ。病院からはタクシーを使えばそれなりの時間に戻れる。

医師の呆気に取られた顔が脳裏に焼き付く。土産話にでもしようかと考えれば少しだけ痛みが紛れる気がした。

気がしただけだったかも知れない。




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あきゅろす。
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