Do you remember?
職員室で仕事をしていれば、俺のもとに刹那がやってきた。
「刹那どうした?質問か?」
「俺が用あるのは先生じゃなくて、グラハム先生。」
刹那はそう言って、俺の横を通り過ぎ、俺の隣の机のグラハム先生に声をかけた。
刹那を見て高くなっていたテンションが、一気に地に叩きつけられるように降下する。
机に向き直り、力が入らない右手でペンを握った。
「どうした?少年。」
「これ、昨日提出の課題です。すみません。忘れてしまって。」
盗み聞く気はないのだが、勝手に二人の会話が耳に入ってきてしまう。
なんだ。課題を提出しにきただけか、と安堵する。
と同時に、違和感を覚える。
「少年が課題を忘れたのは、今回が初めてだったな。今回は特別に許すが、次からは提出日にしか受けとらないからな?」
「…すみませんでした。忘れないように、気をつけます。では…失礼します。」
刹那は俺に一瞥をくれることもなく、すたすたと職員室を出ていった。
それを確認して、俺は違和感の正体を確かめるべく、グラハム先生に話しかける。
「刹那って、いつもあんなか?」
「あんな、とはどんなだ?」
「教師に敬語使うタイプだったかな、と…」
「少年は礼儀正しい。いつもきちんとしているよ。」
Do you remember?
「なぁ、刹那。」
「なんだ?」
二人でソファーに座り、テレビを見ていた。
コマーシャルに入ったのをきっかけに、俺はこの前から気になっていたことを聞いてみる。
「この前、グラハム先生に敬語使ってたよな?でも俺には、付き合う前からタメ口だった…。なんでだ?」
その問いに、刹那は目を大きく開いて俺のほうを向いた。
その顔を見て聞いたらマズかったのではないかと思った。
刹那はすぐに俺から目を反らし、何事もなかったかのようにテレビを見ながら話した。
「……やっぱり…覚えてないんだな…」
「覚えてないって…なにを?」
「初めて会ったとき…、先生が俺に敬語は使うなと言った。」
今度は、俺が目を大きく開く番だった。
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