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一喜一憂
とくに用事もなかったのだが、ただなんとなく、ぶらぶらと町を歩いていた。

「修兵ー!」

いきなり名前を呼ばれる。
声のする方へと顔を向ければ、こちらに手を振る綾瀬川の姿があった。






   〜 一憂 






「奇遇だね。こんな場所で会うなんて。修兵も非番かい?」

あの戦い以来、綾瀬川は俺のことを『檜佐木副隊長』ではなく『修兵』と呼ぶようになった。
負けてしまったからこの呼び名は格下げを意味しているのかもしれないが、あの戦い以来なにかと喋るようになって、俺にとってはこの呼び方のほうが親しみがこもっているようで、むしろ嬉しかった。

「まぁな。お前も非番?どっか行くの?」
「ちょっと買い物に。あ、修兵これから暇?よかったら付き合ってほしいんだけど…。」

そう言って綾瀬川は俺の顔を見上げる。
何故かどきりと心臓が跳ねた。
綾瀬川は、俺にただ都合を聞いているだけでしかないのに。

「あぁ…べつに付き合ってやってもいいけど…」
「本当に!?よかったー。じゃあ行こっ。」

綾瀬川はそう言うと、俺に行き先も伝えず歩き始める。
いつもとは違う、綺麗な着流しを着た綾瀬川の隣りを、俺は緊張気味に歩いた。





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