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happiness
「星刻!」
「天子様!もう来られていたのですね。待たせてしまい、申し訳ありません。」

天子様に助けられた後、私は天子様の話し相手として、週に一度だけ対面を許されることとなった。
場所はいつも、紫禁城の一画。
それ以外に私が立ち入ることを許された場所はない。
本来ならば罪を受ける定めだった私が、ここにいられるというだけでも奇跡なのだ。
本当に、天子様にどれだけ尽くしても、その恩は返しきれない程。

「いいのです。わたしが待っていられなかったの。ねぇ星刻、外の、外の世界をおしえて?」

天子様はいつも、私に城の外の世界の話をしてほしいとお求めになる。
天子様といえど、まだ七歳。
私の話に目を輝かせ、興味津々とお聞きになるお姿は、他の子どもと変わりない。
ただ、その興味の的が外の世界なのだと思うと…

「天子様、今日は手土産を持ってきたのです。手を出していただけますか?」

なに?と言って素直に手をお出しになる。
来る途中に摘んだ花を、その薬指へとおつけした。

「お花の指輪ね。これはなんていうお花?」
「レンゲソウと、申します。城の外にはあちこちに咲いていますよ。
小さい花ですし、たくさん咲いているので、知らずに踏んでしまう人もいるくらいです。」
「こんなに、きれいなお花なのに…」

天子様は悲しむように、自分の薬指の花を見られた。
天子様の優しさは花にまで向けられる。
汚れをしらない、真っ白な御心―…

「花言葉というのを、ご存じですか?」
「はなことば…?」
「一つ一つの花には言葉や意味が与えられているのです。レンゲソウの花言葉は『幸福』です。」
「幸福……」

天子様は手を空へとかざした。
薬指を見つめる表情は先程とは違い、明るいものになられている。

「このお花を持っていれば、幸福になれそうね。」
「はい。天子様は必ずや、幸せになられます。」

私は敢えて断言した。
天子様は幸福になられる。
なられなければいけない。
私が、幸福にしてさしあげよう。
いつか、貴方が外の世界を見られるように。
貴方の目に、レンゲソウのたくさん咲く景色が映るように。

「素敵なものをありがとう。星刻。」

天子様は私にそう言って、微笑みなさった。
天子様がいつまでもそうやって、笑ってお過ごしできること―…それが、私の幸福。





―END―
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※レンゲソウの花言葉は「私の苦しみをやわらげる」「幸福」が多かったですが、事典やサイトによって様々なようです

この二人が幸せになってよかったー…




20080628     侑兎


あきゅろす。
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