work or lover 「一角」 「いっかくー」 「ねぇーいっかくぅー」 弓親がこうやって甘えてくるのは、何も今始まったことじゃない。 いつものことだ。 そしてその声に負けて弓親を構ってしまうのがいつもの俺。 仕事と弓親を天秤にかけたら弓親の圧勝に決まっている。 でも今日はそういうわけなはいかない。 目の前にある山のような書類。 なんとしてでも今日中に、これを片付けてしまわなければ。 先月、俺は弓親の分も明日明後日と非番をとっておいた。 だが、今日になって隊長が溜まった雑務を終わらせないと非番はナシだと言い出したのだ。 弓親はすでに規定の量の雑務を終えているからいい。 が、俺には溜めに溜めてしまった膨大な紙の山が残っているのだ。 弓親はほとんどの時間俺と一緒にいるのに、いつ片付けているというのか。 不思議に思うと同時に、今まで怠けてきた俺をひどく恨んだ。 「一角どうしたの?いきなり仕事やりだすなんて、熱でもあるんじゃないの?なんで僕のこと…無視すんのさ…」 弓親のか細い、それでいてどこか艶を含んだ声が俺の背中に投げ掛けられる。 今すぐにでも抱きしめてやりたい。 だが我慢しなければ。 「…これ片付けるまでは相手できねぇんだよ…。悪ぃけど…ちょっと部屋出ててくれねぇか?」 弓親を遠ざけるようなこと、言いたくなかったのに。 だが、本当に片付けてしまわないとまずい。 明日の非番がなくなるのはなんとしてでも避けなければ。 「…一角の馬鹿」 パシンと襖が閉められ、弓親が廊下をかける足音が聞こえる。 怒らせてしまった。 だが、弓親が近くにいては俺の我慢が限界を迎えるのも時間の問題だ。 こんなことなら格好悪くても弓親に仕事を手伝ってもらえばよかったか…。 そう思っても、今となっては後の祭りだ。 弓親と仕事なら弓親が圧勝する。 だからこそ、今は弓親のために仕事をやらなくてはいけない。 どこか矛盾しているようだが、そう言い聞かせて俺は筆を走らせた。 . →# |