竜、邂逅
「あっ!!ソウマ今までどこに行ってたのよ!お陰でずっと森の中で彷徨う羽目になったじゃない!」
ぷりぷりと怒りながら森の外で待機していたらしいフロルが詰め寄ってきた。
しかし悠長にそれに構っている暇はない。
『ごめんフロル今すぐデスマウンテンに行かなきゃいけないんだ!』
「ガノンドロフが放った魔物がゴロン族の集落で暴れてるのよ。今時の勇者が必死に闘ってるわ」
『放った!?封印された魔物じゃないのか!』
「いいえ、野生のドラゴンを凶暴化させたの」
野生のドラゴン……。
嫌な予感が脳裏を掠める。
昔まだリンクと精霊石を集める旅に出ていたころ、短い間だが仔竜の世話をしたことがあった。
すぐにどこかに消えてしまったけれど。
「いい?貴方の言う物語とは既にズレが生じているの。そこを心してね」
『…………ああ、俺がいる時点で俺が知る物語はない。
とりあえず飛ぶ』
「え、あ、ちょっと!!」
魔力を全身に纏わせてドラゴンに変化させていく。
翼も使えて視力も力も飛躍的に高くなり便利だが力を多く消費する為あまり長い時間変化させることはできない。
「あまり力を使い過ぎると……」
『分かってる、けど出し惜しみしててもしょうがないだろ。自分がいることでこの先何かが変わるのなら何とかしたいんだ』
「もう……知らないんだからっ」
脚の筋力をバネに一気に空へと飛び上がった。
火山が活性化しているため、辺りは煙が広がりドラゴンでも多少は視界が悪い。
デスマウンテンの真上に上がり翼を畳んで一気に急降下した。
熱を含んだ煙の中は一気に行くしかない。
力で皮膚全体を覆ってるがまる焦げになりそうなほど痛い熱さだ。
どんどん下へと落ちていき、やがてゴロン族の住処だったであろう広い空間に出る。
底には溢れるマグマに息絶えたゴロン族の屍たちと割れたゴロン族の顔を模した石壺。
その遥か上では暴れる炎竜ヴァルバジアと弓を引いたまま固まっている勇者。
『(なんで弓を引かない!?)』
苦渋に満ちた表情にハッとしてヴァルバジアを見やる。
ヴァルバジアは既に勇者に向けて炎のブレスを放とうとしている。
ヴァルバジアの背後に向かい四肢でヴァルバジアに捕まり牙で噛み付く。
炎のブレスはそのまま軌道を外し天井へと放たれた。
《見て!違うドラゴンだわ!》
ナビィが叫ぶなかヴァルバジアを捕まえたまま急降下し、その勢いのままゴロンの大壺に叩きつけた。
それから魔術で氷を秘めたブレスを叩き込んでやる。
水なら簡単に蒸発してしまうが大量の氷なら溶けるまでに時間が掛かるし溶け切る前に新たな氷を作ればいい。
大量に吹きつけた氷により辺りが水蒸気で見えなくなるまでブレスを放つ。
マグマの熱に勝った氷は数分は持つだろう。
僅かではあるが、早く残ったゴロン族達と勇者をここから避難させないと……。
「後ろだ!!」
声に反応して振り向く暇を与えず尾で叩きつけられた。
態勢を直せぬまま壁にめり込み痛みで身動きも出来ず、そのまま底へ落ちる。
くそっ……痛え……。
こちらに目もくれずに再びヴァルバジアは勇者と対峙していた。
弓を引こうとする勇者だが、油断してヴァルバジアに落とされるのが目に映った。
痛みに呻き声を上げるが構わずに翼を動かした。
溶け出して溢れ出て来るマグマへと落ちる前に服の端を上手く咥えて崖すれすれで上昇する。
慌てて右往左往するナビィの近くに勇者を横たわせる。
恐らくゴロンの服を着ているから不思議な力で大した火傷は負っていないだろう。
《ア、アリガトウ……》
戸惑いながらも礼を言うナビィをしばらく見つめてからヴァルバジアを撒く為に翼を広げた。
『(俺が相手だヴァルバジアッ!!)』
大きく唸り声を上げて威嚇しつつ
氷のブレスを放った。
相手も負けじと灼熱の炎を吹く。
ヴァルバジアからは既に意思は感じられなく、ただ操られ植え付けられた機械的な殺意しか残っていない。
何も言葉を発せずこちらに攻撃をしかけるのみだ。
あの仔竜の成長した姿が今対峙している魔物でなければいいのに。
あの頃の仔竜ではないのだと思うと悲しかった。
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