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森の賢者






コロッ。



「誰だっ!?」


ガノンドロフの影に打ち勝った勇者は森の賢者として目覚めたサリアと話をしていた。

石を転がした音がし、振り向きナビィも曲がり角の辺りを見るが誰もいなかった。



《誰もいないよ》

「気のせいか……」



ただ、唯一サリアだけが曲がり角の向こうをじっと見つめていた。
目の前の勇者に聞こえないように小さく名前を呟いて。



* * * * *




――ネェ、ヨカッノ?



神殿のなかで一晩過ごしたらしく夜明けの太陽が少しずつ顔を出していた。



『別に会う必要もないんだ。構わない。それよりも姉妹達を探さないと』

――知リ合イナンデショウ?何故コソコソスル必要ガアルノカシラ。

『…………


今更なんて顔を合わせばいいかわかんないんだよ』



独りごちる。
あの時は本当に死ぬ気だった。
いや、死ぬだなんで本当に漠然としてでしかなかったんだ。恰好良く決まったかなとか、これは死ぬんだろうなとか、そんな軽い気持ちで死を選んだに過ぎないんだ。


けれど実際死んでなくて、


あの後、実は元の世界に戻れる……以前の当たり前だった平和な生活に戻れる選択もあったんだ。

けど、後悔したくないから今此処にいる選択を選んで。
でも本当にこれで良かったのか?考え直した方がいいんじゃないのか?と問う自分もいて。




――フゥン、生キテル人間ッテ難儀ネ。



知ってか知らずか、瓶の中からそう呟きが聞こえてそれから姉妹がいる場所まで無言で歩き続けた。




――ア、帰ッテキタ!



末っ子のエイミーが一番に気付きこちらに向かってくる。
ローブの中から覗く光る目は少々不気味だが声からして嬉しそうだ。



――ネェ、オ姉サマワ?

『ああ、悪いけれど器が無いからこの瓶の中にいる』

――エイミー、元気ニシテタ?

――オ姉サマ!!



瓶を取り出しジョオに見せると嬉しそうにメグの魂が入った瓶を両手に持ってくるくると回った。
カンテラはジョオが器用にキャッチした。


――アリガト!オ蔭デメグオ姉サマガ戻ッテキタワ!

――本当二守ッテクレタノネ……、約束。

『守る義理もないけど破る理由もないからな』

――……正直チョット信ジテナカッタノ。デモ、アリガトウ。

――エェ、モウ…コノ世二未練ハナイワァ。
最後二アナタノヨウナ優シイ人間二会エテ良カッタ……。


エイミーとベスとジョオに感謝され、気恥ずかしくて思わずそっぽを向きながらぽりぽりと頭を掻いた。

メグが入った瓶の蓋が外され、メグの魂は浮遊しながら姉妹の元に近づく。



――サァ、帰ルベキトコロへ帰リマショウヨ〜。

――ソウネ、モウ此処二イル理由ハナクナッタ。


――ユキセ、私達ヲ助ケテクレテアリガトウ。
アナタノ未来二幸アランコトヲ……。



一瞬、一瞬だけれどポゥの姿じゃなくて姉妹達が人間の姿に見えた。
確認しようとした時には姉妹達は何処にもいなくなっていて、メグを入れていた瓶だけが苔むした地面に傷もなく落ちていた。



『未来に幸あらん……か……』






コキリの森とハイラル平原を繋ぐ、自分から見れば小さな橋。
此処を抜ければ二度と此処に訪れることはないだろう。

物語が終わるまで。いや、物語が終わってからも。




「ユキセっ!!」



大声で名前を呼ぶ声が聞こえ、突然のことに脚を止めた。
先ほどまで気配は無かったしきっと一瞬で来たのだから森の賢者の力を使ったのだろう。賢者の間にいるんじゃなかったのか。



「一緒、だね。7年前と。
ユキセがリンクの位置にいて……」



サリアがどんな顔をしているか分からない。
きっと怒っているのだろう。どう話しかければいいのかも分からない、どんな顔を見せればいいのかも分からない。
自分は結局自分勝手な理由でサリアを助けに行かなかったのだから。



「私ね……森の賢者としてこれから皆を守ってくの。
でもね、この森にはいられないんだって……。違う場所で皆を守っていくことになるの」

『…………』

「……ユキセとも、もうこうして話せなくなっちゃうの……。


私ね、ユキセが大好きだよ。
ユキセがここに戻ってきてくれて嬉しかった。



例え“ここ”じゃない私の知らない所から来たとしても、私ずっとユキセを見守ってるよ。

だってはじめて出来た外から来た友達だもん!

実はユキセがデクの樹サマに歌を歌っているの聞いちゃったことがあるの。
とっても素敵な歌声だった。


絶対此処に戻ってきて歌ってね……約束だよ」



胸にどうしようもない何かがあふれるように込み上げてきて、振り返ってサリアに抱き付いた。



『サリアッ!!サリアッ!!……ごめんね!何も出来なくて……ッ!』



デクの樹のことも、この森の異変のことも知っていながら何もしてあげられなかった。
力がないことを理由に全力でしようともしなかった。
無理だと諦めを前提にして何もしなかったのだ。



「謝らなくてもいいんだよ、大丈夫。
また来てくれてありがとう、ユキセ」



するりと腕からすり抜けたサリアは光の粒子を帯びながら薄く光り輝いていた。
ああ、行ってしまうんだね……。



『私、この世界を守るよ』



サリアが守る世界を。
たとえ、体が呪いに殺されても。
今できることは少ないけれど。

けれどサリアは首を横に振る。



「ユキセはリンクを助けてあげて。
リンクと一緒なら、ユキセはきっと大丈夫だから」

『……でも、この姿にした理由は』

「あの子なら、きっとユキセを分かってくれるよ。
だから……お願……し…で…」

『サリア!』



最後まで言い終わる前に光の粒子に包まれてサリアは行ってしまった。
サリアは最後に何を伝えようとしたのだろうか……。



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