長女メグ 「そういえば、リンクは一緒なの?」 腹よりも下の方から声がして、動かしていた脚を少し止める。 季節が一周りするくらいの間聞いていなかった名前が聞こえたからだ。 『以前逸れちゃって……。 それ以来、顔を見ていないよ』 「そうなんだ……。リンク、大丈夫かなあ」 『大丈夫だよ、きっと。リンク剣を扱うの上手だし』 「そうじゃなくて生活の面よ」 『そうな……え、生活?』 「リンクって時々のんびりでズボラな所あるし」 『え、あー、まぁ……』 「一人で今旅してるならそこの部分が心配で……」 『……あはは』 命じゃなく生活面で心配されてるリンク御愁傷様……。 二人の靴音しかしない神殿の中を歩くがなかなか目ぼしいものが見つからない。 キースやスタルチュラがたまに襲いかかったりするのを剣で叩けば容易く倒せるので中は比較的平和だった。 「変な絵、何だろ」 巨大な絵画がある部屋でサリアがそれを見上げながら呟いた。 ポゥが描かれた……正確には取り憑いたもの。 本来なら違うポゥのはずだが、そこにいるのは紫のポゥだ。 ご丁寧にパズルのブロックも絵画の目の前に置いてある。 「ユキセ、これやってみましょ」 『えぇ……、まぁ大丈夫か』 1分もあれば終わるだろ。 手を鳴らしながらパズルのブロックに手を付けた。 * * * * * 『最後の1個っと……』 絵画と同じ絵になるようにブロックを動かし終える。 あとは巻き込まれない位置にいるようサリアに逃げてもらわないと……。 「きゃあっ!」 『サリア!?』 悲鳴に思わず振り返ればサリアは既に何者かの黒い煙によって絵画の中へと吸い込まれていった。 助けを求めて伸ばしていた手を掴もうとこちらも走りながら手を伸ばす。 が触れるか否かのところで完全に吸い込まれてしまった。 『クソッ!!』 ――ケケケッ。 カンテラをカラカラと鳴らしながらふわふわと浮遊する紫のポゥ。 神殿の外にいたポゥたちの姉だ。 ――ネェ、ワタシト遊ビマショウ? 『サリアをお引き寄せたのはあなたか、メグ』 ――ナンデワタシノ名前ヲ?ダッテ連レテ来ナイト、酷イコトサレチャウモノ。痛イノハモウ嫌ナノ。 妹達ニモ会ワセテモラエナイシ。 『三人は神殿の外にいる。あなたをずっと探しているよ』 ――……ホント?会イタイワ。 何年モ会ッテナイモノ……。 『じゃあ……、うわっ!!』 手を伸ばそうとした瞬間殺気を感じてしゃがみこんだら頭上にタイルが飛んでいった。 そういえばあったなあんなトラップ……じゃなくて! ――ウゥッ!頭ガ痛イ!余所者ヨ、ガノン様ノ邪魔ヲスルナラ消エテチョウダイ!! 怪しげな黒いオーラを纏ったメグは影分身のように自分と同じ姿を何体も出現させて攻撃をし掛けて来た。 カンテラから繰り出される炎の球を間一髪で避ける。 『危なっ……。くそっ、洗脳か!?』 ――痛イ!痛イ!アッチイケ!! 半分暴走状態でこちらが避けようが絵画に当たろうが辺り構わずブチかましていて、しかしこの部屋じゃ隠れられるような物もないためなおさらタチが悪い! ついには扉にも炎が当たり、古いからかそれと普通の炎じゃないからかあっと言う間に燃え広がってしまった。 逃げ場はなしか……!! ――ホ、ホホホ!逃ゲラレナイワ! 私ダケ痛イナンテ嫌!! サッサトソノ身ヲ焼カレテ苦シメ!! 周りをメグの分身に囲まれて全方位から炎が放たれた。 小さな炎が集まり大きな塊になる。 ――アラ……? キャッ!!眩シイ!! 光に目が眩んだ隙に大きく跳躍し、力強く走り出す。 動く度に水飛沫が飛んだ。 ――ウソ!!何デ無傷!?デモドレガ本物カナンテ……。 『幽霊相手に挑むのに武器だけしか持ってないとでも?』 剣を抜刀して切っ先を迷いなく目の前のメグが持つその古ぼけたカンテラに突き刺した。 ――キャアアア!! カ突き刺した所から禍々しい闇の煙が溢れていき、形を保てなくなったメグは燃えて紫色の火の玉のように小さく揺らめく魂のみとなった。 なんでポゥだけこうやって魂が残るのだろう。 それだけ未練が大きいってことだろうか。 瓶を被せて中に閉じ込め、蓋をした。 ――エ?イッタイナニ……? ドウシテ……? 『はなから目星は付けてたんだ。魔力を混ぜた水の膜を張って水越しに見れば一発、ってね』 だって、人間じゃないなら操る際の触媒は何かなと思ってたけど何もないしそしたらカンテラくらいかなぁと。 けれど……まあ想像はしていたが 、魂だけになってしまった。 瓶を持っていて良かった。 なんで瓶に閉じ込められるのかは知らない。 『サリアは一体どこに?』 ――分カラナイ。ケド、死ンデハイナイワ。無事ナノハタシカダモノ。 『そうか……』 瓶から視線を外して壁にある大きな絵画に目を向ける。 そして部屋の外に出るべく歩きだしたのをメグが慌てて叫ぶ。 ――ガノンドロフノ元二イクノ!? 『あれはガノンドロフじゃない。ガノンドロフによって実体化した影だ』 ただの幻影だ。 しかし、ガノンドロフだったら人質に何も手を出さないとは随分紳士なことだ。 手を出したりしたら絶対に許さないが。 大広間に戻るとカビ臭く、埃まみれの豪勢なカーペットに自分が付けた足跡以外にもう一つの足跡があった。 『時の勇者が来たのか……』 リンク…………。 名前を心の中で呟くとともに込み上げてくる、会いたいという思い。 けれど、それでは自分の我が儘なお願いが無駄になってしまう。 唇をきゅっと噛み締めた。 ――ドウシテ勇者ハ此処二訪レタノカシラ。 『それは賢者を復活させるためだ。 各地にある神殿には賢者の力が封印されてある。勇者はそれを解く為に来たんだ……ガノンドロフを封印するために』 ――アナタ、モノ知リナノネ。 ただの純粋な疑問だろう。 感心したように言ったその言葉にまあねと返した。 何故という疑問はきっとそこまで興味がないからだろう。 , [*前へ][次へ#] |