再開
森の奥深く、外から来た人間には入られないような場所にある神秘的な雰囲気を纏わせた建物。
ただ静かに、厳かに佇むのそこは……森の神殿。
恐らく森の賢者が其所で暮らしていたからいつの間にかそう呼ばれるようになったのかと想像する。
てことは若かりしデクの樹にも会ったことがある?
確か此処って庭が左右対象になってるんだよなぁ。
攻略の仕方が今もよく分からないダンジョンだった。
『おっと……』
崩れかけた階段の最後の一段に脚を掛けた途端、年月によって脆くなってたらしくいとも簡単に崩れていった。
慌てて、巻きこまれないようにそれよりも上の方へ避難した。
もうフックショットじゃないと此処は登れないな……。
じめっとした空気で微かな鳥のさえずりと葉と葉がこすれ合う音が耳に届く。
ひっそりと身を隠すように魔物たちが神殿に身を寄せ、微かな気配が感じられた。
薄暗い大広間、本来ならば四色の火を灯していた蝋燭も火が消えている。
当然BGMも何もない。自分が発する音だけしかこの空間に響かない。
『…………?』
入って真っ正面の扉から聞こえてくる微かに聞こえた小さな音。
まだ誰も来ていない筈なんだ。まだ。
扉を開け、音を立てずゆっくりと歩みながら微かな音の元へ向かう。
確か先は階段と大きな部屋しかないはずだ。
誘われるように階段を上り、小さな扉へとたどり着く。
開けようと取っ手に手を賭けるが、
『……あれ?』
下まで降ろそうとするが途中で硬く止まってしまう。
鍵が掛けられているようだ。
しかし、中からなにか動く気配がした。
仕方ない、ぶっ飛ばして開けようか……。
「だ、だれ……?」
扉の奥からか細い声が聞こえた。
少女のようだ。懐かしさが感じられ心にしんと暖かいものが降りる。
相手に不安を与えないよう、出来るだけ普通の声色で話しかける。
『俺は敵じゃない。今さっきここに辿り着いたんだ』
「外のヒト?普通なら入れないのに」
『分からない、けれど人を助けて欲しいと頼まれたんだ。君はどうしてここに?』
「……ちょっと待ってて、そこを開けるわ」
ぱたぱたとこちらに向かう音がして、一歩半下がって暫くするとカチャリと鍵が開く音がした。
錆びた蝶番の音が響きながら扉が開く。
すると緑の服を着た懐かしい姿が目に映った。
対して目の前の小さな少女は目を見開いて驚愕した表情をしていた。
「え、……あなた……………
ユキセ……?」
前と変わらないくりっとした目をまん丸にして、思わず口元に手を充てているサリアに眉を八の字にさせて薄く笑った。
* * * * *
「ごめんなさい……、私驚いちゃって……」
『無理もないよ。だって元の姿の面影すらもないもん』
「でも不思議、私ユキセだって理解できたの。ねぇ、なんで男になったの?」
『それは……まぁ、いろいろあってね……』
「そう……」
苦笑いしながら言葉を濁すと表情を少し落としてそれっきり、会話が続かなかった。
言葉に含まれたものを感じ取ったようだ。
なんて言えば分からなくて、サリアになら言っていいのか悩みあぐねる。
さっきまで俯いていたサリアだったけれど、突然顔を上げて何かを思い出したかのように口を開いた。
「暗くなってもしょうがないよね。ユキセ、オカリナ持ってる?」
『え、あ、うん。あるよ』
「サリアの歌覚えてる?」
『そりゃあ!最近やっとまともに吹けるようになったんだ』
「ほんと?サリアに聴かせて!」
わくわくしながら笑顔でこちらを見るサリア。
こんな姿なのに、何故恐がったりしないのだろう。
懐から壊れないように、失くさないようにとまじないを掛けたオカリナを取り出して口にあてる。
〜〜♪
辛い時、何度も吹いて自分を慰めたこのオカリナの音色。
優しい色に囲まれていた頃を思い出して、必死に耐えた。
耐え抜いた。
例え今が辛かろうといつか自然と笑える日が来ると信じた。
軽快なリズムを奏で、サリアも踊りだした。
妖精のように軽やかに踊る姿は以前見たものと何も変わっていなかった。
さっきまで俯いていたのに笑顔で楽しそうだ。
「すごいすごい!ユキセ昔は音を出すのも苦手だったけれど今じゃ完璧にマスターしてるね!」
『そりゃあ、たっくさん練習したんだよ?オカリナを吹くのはとても良い気分転換になったもん』
「ふふふっ、その格好で女の子の言葉って面白いね!」
『それを言わないでよ……』
「うふふっ!
あ!いけない忘れてた!私、探し物をしてるんだった!」
確か声が聞こえて此処に来たんだったか。
そういえば何故この部屋に鍵を閉めて隠れていたのかと聞けば、魔物が襲って来て怖くなり、隠れる場所をさがしていたら此処にたどり着いたらしい。
確かに、原作と違い物置部屋みたいに使われなくなった家具や絵画などが埃まみれになってそこかしこにあるためサリアなら簡単に隠れられるだろう。
しかし趣味の悪い絵もあるな……。
誰が描いたものなんだか……。
それよりもこちらも長女のポゥを探し出さなくてはならない。
お互い場所が分からないので一緒に神殿を回る方が良策だろう。
『わた……俺もお供よろしいですか?お嬢さん』
「ふふっ、ユキセがいるなら安心ね!」
軽く笑みながらサリアの手を取り神殿の探索を開始した。
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