助け
はじまりは、森にすむ小さな緑の子と異世界から来たおとなしい子の出会いでした。
異世界の子は、その世界を物語として知っていたので緑の子によく聞かせてあげました。
もちろん、異世界から来たことと物語のことを伏せて。
ふとしたきっかけもなく、異世界の子はもとの世界に帰れなくなりました。
帰る方法を探すため、異世界の子はその世界で暮らすことにしました。
しかし、ある日突然樹の精霊の力が弱まりました。
中に巣食う原因の魔物を退治しましたが、既に樹の精霊は命尽きる寸前でした。
今際の際に緑の子に命がけで守った精霊石を渡し、力尽きました。
長い長い旅のはじまりでした。
* * * * *
でかいデクババが此方に向かって大きな口を開ける前に、低く屈み込んで剣を横に振り、茎を切り裂いた。
デクババはそのまま煙となって消えていった。
剣をそのままに深い森の中を進んでいく。
今いる森、“迷いの森”は長い年月が経ったからなのか、それともこの森を守っていた森の精霊が死んだからなのかは分からないが以前よりも鬱蒼と生茂っていた。
そして魔物も巨大なものが多くなった。
それは後者が原因だろう。
とりあえず、適当に進んでるけど大丈夫かなぁ……。
「駄目に決まってるでしょ、ほら右!みーぎ!」
『え、フロルなんで此処にいんの!?』
ふわりとスカートを風に靡かせて宙に浮く、翡翠色の髪をおさげにした少女が呆れた表情で現れた。
「見当違いな方向へ行く白髪を案内してあげようと思って」
『白髪って……好きでこんな姿になったんじゃないんだし……』
「あたしがいる時は良いけど他の人間に会ったら女の子っぽい言葉遣いはやめなさいよ。おカマに見えるから」
『はいはい……』
そんなこと言われたって……。
出来るだけ頑張るけど……。
フロルにいろいろ言われつつ相変わらず陽の当たりにくい森の中を歩いた。
基本舗装されていない獣道だからとても歩きにくい。
剣を仕舞わなかったのはこのためで伸び放題の枝を切っていかないと歩けない所が多過ぎた……。
……浮遊って楽で良いよね。
『お、空気が変わった……フロル?』
ぞわりとした感覚と重なって背後にいた気配が消えた。
急に現れたと思ったら急に消えるなよ……。
見渡しても先ほどと変わりない風景だ。見慣れたおさげはいない。
恐らく引き離されたのだろう。
しかし、さっきまで漂っていたのとは違ってだんだんと神聖とは言い難いが何というか……純粋な空気になった。
この感じ……前にも一度味わったことがある。
それがなんだったのかは記憶に残ってないが、とりあえず先に進もう。
* * * * *
何処に行けばいいのか分からないので、とりあえずフロルの言うとおりに道を真っ直ぐ進み続けた。
視界を邪魔してくる枝も暗さも変わらないのに純粋な“気”が変化し、歩き続けるごとに強くなっていく。
そして時折り聞こえる女性の笑い声。
妖精かと思ったが、違うようだ。
デクの樹が亡くなってから7年、力は弱まり森の中にも多くの魔物がいるこの場所に妖精が十分に生きていけるほどの環境はもうない。
だとしたらポゥか何かだろう。
カンテラカラカラ振り回すだけの雑魚には興味が無いのでスルーだ。
『…………あれ?この木さっきも見た気がする』
――クスクス。
……まぁこんなに木があるんだ。同じ形の木もあるだろ。
対して気にせずその木を通り過ぎた。
しかし、数分後。
『……』
また同じ木があり、クスクスと笑う声とカンテラをカラカラと鳴らす音が聞こえた。
――クスクス。
――アノ子バカネ。
『おい聞こえてんぞ』
馬鹿にした笑い声に変わり、内心腹立つ。
これはこいつらの仕業か。
『ご丁寧な歓迎だな。何の用だ?』
何か知らないがくだらないのだったらたたっ斬る。
そうしよう。
カンテラを鳴らしながら三体のポゥがふよふよと浮遊しながらこちらに近づいて来た。
丁寧に色分けされてる………ってこいつら神殿にいる魔物じゃないか?
『で、何の用だ?未練を晴らしたいなら他所にお願いしろよ』
「ポゥに話しかけるなんて奇特な人間だわ」
「違うわよぉ。そりゃこっちを見て逃げていく人間しかいなかったけども〜」
「まぁ既に人間じゃないポゥに話しかける人間もいなかったけれどねぇ」
『カンテラ奪い取るぞ』
ポゥのアイデンティティ無くすぞ。
人を変人扱いしやがって。
「待って。あなた、この奥にある神殿に行くのでしょう?」
『……そうだけど』
「なら、頼みたいことがあるのよ〜。勿論未練ではないけれど、とても大事な頼みごと〜」
「“勇者”であるあなたに私達と違った紫のポゥを見つけて欲しいの。その神殿にいるはずよ」
『へ?待って。俺は勇者じゃないぞ』
「そんなの別にどうでも良いのよ。ともかくお願い」
「私達に話しかける前に人間達は皆魔物へと変わってしまったのよ〜。だから、唯一変わらないあなたに頼みたいの……。……もう、これで最後かもしれないもの」
少し沈んだ声で最後はなかば諦めかけたような小さな呟きだった。
三体のふよふよと浮遊するポゥを見て、溜め息をつきながら行きかけた足を戻した。
間伸びした声がジョオ、彼女達より一回り小さくて一人称があたしなのがエイミー、そして少々ツンとした物言いなのがベス。
探して欲しいと言った紫のポゥはメグという。
それよりも気になるのがどうして神殿にいた中ボス的存在であるポゥ4姉妹の内3人が外にいるのだろうか。
『何で1人だけ神殿にいるんだ?』
「私達は入れないの。以前は入れたのにこの姿になってからメグ姉様を残してずっとここを彷徨ってたの」
「もう時間がどれくらい経過したのか分からないくらい……あたし、メグお姉様が心配なの」
「こんな姿だから、誰も助けてくれないの……」
『誰も助けてくれない……か。
で、神殿はどこにあるんだよ?』
「神殿の姿は確認したことはあるからこっちを真っ直ぐ……え?」
「神殿……行ってくれるの?」
『是と答えなきゃ俺も彷徨ってスタルフォスだろ』
「でも……神殿と言われてても中は危険なのよ?」
『そんなの、承知でここに来てるんだ。今更過ぎるよ』
エイミーが石の様に固まり、自分で頼んできた癖にジョオが纏った空気を変えて聞いてくる。
『こっちは人助けるつもりで来てるんだ。今更1人増えようがついでで探すだけだ』
「……そう。ありがとう」
発光してるだけの目を優しく細めた。
とりあえず紫のポゥは消しちゃ駄目か。忘れないようにしよう。
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