立ち向かう
遊ぶようにだんだんと締まる力が強くなってきて、息を肺に送る術を失ってしまった。
『
……ぁ……』
「良いのか小僧、お前の姉とやらが死んでしまうぞ」
「っ!!姉ちゃん!!」
茫然としたままの表情を消してガノンドロフへとまた飛びかかって行く。
それでも奇跡なんて起こる筈はなく遂に立ち向かう体力も尽きて跪いたまま悔しそうに歪めるだけしか出来なくなっていった。
それを見てまた嗤うガノンは思いついたようにこちらを見た。
嫌な予感が、した。
「そうだ、お前の前にこの小僧からにしようか」
絶望の言葉に大きく目を見開いた。
そんなの、“ゲーム”になかった。
リンクがいなくなったら、この世界はどうなるの?
主人公、時の勇者がいなくなってしまったら。
世界は…………壊れる?
『や……めて……』
最後の抵抗で篭手で覆われた腕を掴む。
既にもう片方の手はリンクに向かっていた。力が収束しガノンの手に闇の塊が生み出されていく。
『止め、ろ…………』
ぐっ、と腕を掴んだ手に力を篭める。みしみしと音が入ったのに気付いたガノンは怪訝そうな顔をしてこちらへと向いた。
爪が篭手を突き破った。
「なにっ!」
手が緩み地面へと落ちる。
痛みにゴホゴホとせきをしつつガノンから距離をとった。
「何だその力は……くっ、纏わり付く」
『ゴホッゴホッ!……っ!!』
しつこく手を払ってもこの闇は剥がれず寧ろ多くなった。
闇が身体を包み、身動きが取れなくなったがやがて、より視界や感覚が広がった感じがした。
しかし、泥よりも重たい闇は意思とは関係なく溢れ出る。
『ひいっ…………!!』
「姉ちゃん!!」
聞き慣れた声に振り返りたいが、重い闇になかなか身動きが取れない。
『リンク……』
「姉ちゃん!!今助けるから!!」
駆け寄るリンクはこの泥のように重い闇を両手で掘り返すようにして闇を払おうとした。
けれど制御しきれないほどの闇の量に次々と溢れ出る。
だんだん身体中から痛みが出るようになった。
「姉ちゃん!!姉ちゃん!!」
『くぅっ、り、リンク……』
リンクに届くように手を伸ばす。
痛みで気を失いそうだけど、言わなければいけないことがあるんだ……!
力を振り絞って思い切り手を伸ばした。
闇を突き抜けてやっとリンクに届いた。
「姉ちゃん!!ねぇ……死なないよね……!!」
涙を流しながらそう訴えかけてくる。
リンクの頬を優しく撫でて、微笑みながら言葉を紡いだ。
『大丈夫、大丈夫だよ……リンク。
私からの、お願い……聞いて?』
「……うんっ」
『世界を……ハイラルを……
ゼルダを救って……あげてね』
イレギュラーな私ではとても叶えられないそれをリンクに託した。
卑怯だと思う。
リンクに一方的なお願いしか自分はもう言えないから。
「姉ちゃん……目が……」
『時の神殿へ。ゼルダが……君に残したもので開けて、ね。
さあナビィ!』
「姉ちゃん!!」
《……リンク、行かなきゃ!》
「……でも!……姉ちゃん待ってて!すぐ行くから!!」
あふれる涙を拭うこともせずにリンクは燃え盛る城下町へと走って行った。
今までありがとう、リンク。
声に出さずに呟いた。
「貴様……俺から闇を盗んだな」
『……あははっ、盗賊王が盗まれる立場に回るなんて笑っちゃうね』
もう視界は黒く塗り潰されたように真っ黒で、何処を見ても闇色だった。
感覚が鋭くなった様に感じて、より煙の臭いがはっきりするようになった。
けれど、痛みは相変わらずだ。軋むように痛い。
「貴様殺気を抑えられてないぞ」
『だって、闇を抑えられないから。さっきから破壊衝動に駆られてる……壊したいって』
こうに至った原因であるラスボスと話をしているのは何とも不思議な光景だろう。
けれども闇は形を取るように変形していっている。
翼のような、目線がガノンよりも高くなったような、
尾のような。
嗚呼、これじゃあ自分は
化け物みたい…………。
泥の様な身体。
端からみるとドラゴンのような姿だ。
ガノンは豚の様な姿だったな。
良かった、
豚じゃなくて。
「俺の力を取り込んでドラゴンへと形をとったか。体をデカく見せても
それじゃあ俺には勝てんぞ」
『良いよ、勝つつもりなんて毛頭ない』
勝てないなんて最初から分かってる。
しばらくの間、この抑えられない破壊衝動に付き合ってもらうだけだから。
擦り傷だけなんて済まされないだろう。
最悪死ぬかもしれない。
でも、またリンクに会えるかもって考えたら出来るような気がするんだ。
泥のような翼を広げてガノンドロフを見つめた。
「ほう……。
勝ち戦だな、その力返してもらうぞ!!」
衝動のままにガノンドロフに向かった。
リンク……もし、また会えたら、
会えたら、一度でいいから名前で呼んで欲しいなぁ……。
end.子ども編終了。
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