カカリコ村
たまに馬車がハイラル城下町に向けて走っていくのを見ながら草原を歩いていって、太陽が真上を通り越してからちょっと経った頃にカカリコ村へたどり着いた。
古くからハイラルの王家を影から守ってきたシーカー族。
10年も前……ハイラルがまだ今の様に統一されていなかった頃、戦争がずっと続いていた。
そのなかでシーカー族は一度だけ王家に裏切られたのだという。
それがきっかけでシーカー族は分離した。ハイラル王家に仕える方とハイラルから離れ遠くの地へ離れていった方。
勿論ハイラルにまだいるシーカー族はインパだけではないと思うけれど、明かさない方が影として仕える意味があるだろう。
多少自分の推測も混じってるけど、そうシーカー族についてインパから聞いた。
カカリコ村はもともとシーカー族が暮らしていた跡地で山の麓にある。
シーカー族の生き残りであるインパはシーカー族には不要だと考え、カカリコ村を戦争で親を亡くした子達や家を無くした人々に明け渡したのだという。
カカリコ村は戦後の傷痕など見えぬ程に活気に溢れていた。
また新しく建築している光景やコッコがそこらへんを彷徨いていたり、馬を率いている人なんかも見かけた。
「ここも賑やかだね」
《それでいてどこかのんびりとした感じ……老後の隠居には最適って感じね》
ナビィがぼう、としてる老人を見ながらそうコメントした。
確かに静かに暮らすには良い所だ。
カレヤおばさんもあんな寂しい所よりも此処の方が良いと思う。
そこに思い入れが無い限り、ずっとそこにはいないだろう。
「えーと次に行かなきゃ行けないのは……えーっと」
『ゴロン族が住む、デスマウンテンだっけ。次の場所は』
《そうだヨ!》
『で、確か炎の精霊石だった……よね』
自分は今日何をすべきか悩んだ。
先ずは宿を取った方が良いだろうか。食糧もとりあえず自然で採れるが補充したほうが良いだろうと考えながら今日の予定を組む。
『……なんの騒ぎ?』
村の奥、嵐の歌をいつも弾いてる男の家がある近くで若い女の子のみの集団があった。
此処カカリコ村でも旅商人は良く訪れているらしく、小さい市をやってたりもするらしい。
それかと思ったのだが違う様だ。
「うわぁ、誰だろ……」
ナビィがイケメンねと評した相手を見る。
なるほど、確かに顔の形が整った男で周りの女の子達と楽しく談笑していた。
身なりの良い恰好をしていたからそれなりなんだろう。
「ああ、あれは此処カカリコ村に貢献してくださった貴族様だよ」
「そうなの?」
「ああ、人が優しくてな。ワシらの為に家を建てる物資を無償で提供してくれてな」
情報をくれるおじさんとリンクの会話を耳で聞きながら目はじっと貴族の男を見やる。
おぉ、偉い人始めて見た。え?ゼルダ?毎回脱走出来るほどあり得ない行動力持ってるぞあの姫。偉い人に見えない見えない。
男はこちらに気付いていないらしくずっと女の子達と会話をしていた。
《ユキセ、どうしたの?そんなに見つめちゃって。あ!もしかして惚れた!?そうなのね!?キャー!!》
『うん盛り上がってるとこ悪いけど違うからね?』
無表情で男をずっと見ていた。
自分はあまり貴族という立場の人間が好きではない。優しい貴族ほど何かがありそうだから。史実でも実際そんなのがいたし。
それと先ほどから背筋にぴりぴりとくるなにか。あの男の存在がそうさせてるのだと思えば何処かで納得させた。
『そろそろ行こう』
《あ、え、ユキセっ!
リンク行きましょー》
「え?うん」
先ずは宿を取ろうと、興味もないとでも言うように男から目を離して背を向けた。
実際興味は無い。それよりもいずれ来る魔物との戦いで頭がいっぱいだったから。
だが、去っていく此方を怪しげな笑みを一瞬浮かべながら見ていたのを誰も気付かなかった。
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