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守る術(すべ)





剣が小さくカチカチと音を立てて震えた。


恐い。
何かを切る、という行為が。


一番弱い雑魚敵と見なされているスタルベビーでも、下手したら自分の驚異に成り得るのだ。
腕に薄い引っ掻き傷が出来ていたのをちらっと見るだけで直ぐに視線を元に戻した。

脳内が混ざり合わない絵の具によってぐちゃぐちゃに掻き回されてる感覚がした。


キモチワルイ。


剣もまともに持てない一般人でこんな状況に置かれている自分が?それとも血も出ない、斬られたら跡形も残さず炎となるこのスタルベビーが?




『っ!!』




スタルベビーの爪が此方に向かって来る時はもう剣を下に下げていた。慌てて防御する体勢に入ろうとすればそのスタルベビーはいつの間にか炎と化した。



「大丈夫か」




自分以外の長い剣が左から生えてスタルベビーを突き刺していた。

もう何も無くなったソレを見て、この世界で死は当たり前かのように隣にいて、人は武器を持たねば簡単に魔物の前で倒れてしまう存在なのだと、
少しずつ理解出来た気がする。
追い詰めないと解らないなんて、そんなにマゾだっただろうか。



「……大丈夫か?腕から血が出ている」




さっきの傷口からいつの間にか血がたらり、と流れていた。布を出しそれを慣れた手つきで巻いていくのをじっと見つめた。




「……戸惑っているんだろ」


『………え』


「何の目的で旅をしてるかは聞かない。
だがきっと長い旅なんだろ、魔物が蔓延る所へ行く。
だからそんな思い詰めた顔をして、斬ることに慣れる為に魔物に向かった」




当たっている事に顔を見上げると、視線をわずかに逸らして「……俺もそんな時があったからな」と呟いた。




「みんな通る道だ、平和に生きていた奴らがな。今のハイラルは昔はともかく、剣は必要無い。

民はとにかく、兵士達までそれではもしもの場合直ぐにハイラル城は陥落するだろう。
だから城から出て魔物を殺す。
城の周りに来ないよう牽制の意味もあるがな。大抵初めての人間は震え上がって泣き出す奴もいる」




そうやって、自分が剣を持つ意味と大切な人達を守る術を知りながらハイラルの兵となるのだろう。



みんな、通ってきた道……。

優しいリンクだ。きっとリンクも自分と同じ思いをしていたに違いない。
だとしたらなんて酷な事をしていたのだろうか。



『守る為に……』

「そうだ。斬る為じゃなく、守る為に……

そんなの、…………」

『…………え?』



何か小さく呟いていたのを聞いていたけれど、それが何なのか分からなかった。聞き返してもはぐらかされてしまった。
何を言おうとしたんだろう?



『…………アイヴァンさん』


「なんだ」


『剣を扱える様にしてください』


「いいが……今からだと眉唾物にしかならないぞ」


『案ずるより産むが易し、です。私も……守る術が欲しい』


「……分かった。力になろう」




アイヴァンさんに頼み込み、剣を扱うについて脚の踏み込み方や剣の振るい方を教えてくれた。

腕力が無いからか何度も剣を落としてしまう。けれどその度にアイヴァンさんは待っていてくれて自分にも分かりやすく教えてくれた。



アイヴァンさんに妹さんがいたことはおばさんから聞いていた。
しかしある日、盗賊が村を襲ってきたらしい。おばさんはハイラル城へ、アイヴァンさんは仕事に出掛けていたので妹さんだけが村にいたんだという。


その最中、村が襲われた……。
その時のアイヴァンさんは苦しんだ表情で剣を握っている方の手が白くなっていた。

その場にいなかったのが辛かった、そして悔しかったんだと思う。


私だったら……私だったらどうしただろうか。

大切な誰か……か。



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あきゅろす。
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