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手にした剣の重さ





夕飯を貰っておいて、何もしないというのは失礼に当たるんじゃないかという日本人特有の人情というか。

とにかく半ば自分の自己満足の為におばさんの夕飯の片付けを手伝った。
小さくぽつりと、自分以外聞こえない大きさで呟いた。




「私、あの子が何を考えてるのか分からない時があるの……」


『え……?』


「あの子にとっては最善の選択だったのだろうけれど、肉親もも亡くし妹もいないなか、何が良くて何が悪いのか……」




それ以降、おばさんは今の事について話すことはなかった。カチャカチャと重なった皿と皿が発する音が耳についた。




陽は沈んで冷える夜。
今はそれなりに暑い季節だけれど、だんだんと寒くなっているのが直に感じ取れた。着てる服の裾を肘まで上げるのを止めて手首まで伸ばした。
そして腰に差していた剣を手にとる。

夜の光に照らされた剣は鈍く蒼白く、目に焼きついた。



『剣を持つ者剣に斬られる覚悟を持て、そして命を重んじ守る為に剣を薙げ。……か』



インパに言われた言葉だ。
この剣で魔物を斬った事はまだない。ゴーマ戦では殺らなければ殺される勢いでやった。

しかし、自分がでしゃばらなくともリンクがやれたのではないだろうか。

その後手があり得ないほどに震え、隠すのに必死だった。だからだろうか、リンクが率先して前に出て魔物を相手するようになった。

身の内に秘めた使命感と勇気、そして天性の剣才によって重そうにしていた剣もだんだんと扱える様に見えた。


自分は……なんで着いて来たのだろう。


リンクなら別に自分がいなくとも火の作り方や魚の捕り方など一人で行なってしまいそうだ。
知識が豊富なナビィだって一緒なのだ。約束とはいえ、自分は足手まといのような気がする。



イレギュラーがいなくても、リンクは、物語は進むのだ。



剣を鏡にして見れば、何時もより栄養を摂れていないのが原因であろう以前より痩せた顔。痩けた頬が目についた。
元の世界でならきっと心配されるだろう。
別にどうでも構わないのだけれど。あの人達に心配されても……。


シャンプーなどこの旅には無いものでごわついた髪。今はまだキューティクルは保っている。一度誰もいない所で全身を洗った方が良いだろう。
あまり潔癖では無いのでまだ耐えられる。
しかし映った自分の今の姿は前よりも変わり果てた姿だった。


そうだ、今までの都会の豊かな生活とは違い現代人である自分にとって今後は更に過酷なものになるだろう。


果たして生きて帰れるだろうか。
死んでしまいそうな気がする。こんなにも無力な人間なんだから。


無いものねだりしても仕方のない話だ。けれどこんなにも飢えた獣の様に強さを求めようとする。

それが更に自分は無力なのだと突き付けられ、だから強さを欲しがり、弱さを隠そうとしてる自分に虚しさと怒りを感じた。
弱いから、リンクが強くなる事に嫉妬するこの醜い感情を今すぐ胸から抉りとってしまいたかった。

そんなものを振り払う様に早足で家から遠い広場へと歩いて行った。真っ暗だから、地面からスタルベビーが地面から這い出て来た。

生者を襲い、肉を喰らう骨の魔物。
闇の典型的な本能を持つ魔物だ、光を嫌う。

背腰にある鞘から剣を抜き一体のスタルベビーに向けた。走ってゆったりと動くスタルベビーの首を剣で掻き斬った。
まるで枯れた木を折るような、ちょっとの力で別れ、黒く白い炎に焼かれる体。
血など出ない。



まだ数体いる。



しゃれこうべの目の穴から赤い光が煌々と闇のなか光っていた。



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