母の味
『ねぇ、ナビィ。おばさんの話とさっきのナビィの状態……なんか繋がりでもあるのかな?』
リンクの帽子からちょろっと顔を出しているナビィに問いかける。慣れないのか、まだ帽子から出たくない様子。
妖精が怯える村か……良くない気があるんだと思う。
「分からないヨ……デクの樹サマから教えて貰った事には無いモノだった」
何か見えたとか……?もっと聞きたかったけれど、シュンッと帽子の中へ入っていってしまった。
「お化けとかかな?」
『かもね、村の状態が状態だし』
盗賊に襲われたとか。
でも人為的なものでこんなに家が崩壊とかするかな?……ああ、爆弾とかがあるか。
それか魔物が襲ってきたとか?
いろいろ思考していると扉の開く音が耳に入った。おばさんではない。
では……。
『…………だれ?』
「……誰だあんたたち」
あまり見かけない自分とほぼ同じくらい黒い髪が目に入った。そして次に灰色の瞳。
相手も無遠慮に見ているのでこちらも遠慮なんてしてない。
ただでさえ原作に関して自分が知らなかった事柄。こちらに危険があっては困る。
ただこのお兄さんがおばさんの身内という可能性も考えてある。
この微妙な空気を打破してくれたのがおばさんとリンクだった。
「あら、ずいぶん早く帰って来たわね。おかえりなさい」
「あ、おばさん!この味のクッキーまだある?」
………………。
リンク、君は勇者というか……空気を読まないというか……。
なんとなく手で顔を覆いたくなった……。いや、した。
それにおばさんは初めて笑い(苦笑いだけど)お兄さんは何だか呆れてた。
「あらあら、まってちょうだい。直ぐに焼くから」
ぱたぱたと台所へと戻っていく。
お兄さんは担いでた荷物を隅に置いて再度こちらを睨むように見つめてくる。
「アンタ達は誰だ?何故二人で……親はいないのか?」
「あ、えーと……」
『両親は戦で亡くなりました……。親代わりに育ててもらい、今は旅をしてます』
正確に言えばリンクのことだけど……。
リンクは「姉ちゃん……?」と不思議そうな顔をしていた。
「あの戦か……」
そう呟き、渋い顔をする。
聞けばお兄さんの両親も戦によって亡くなったと短い言葉で教えてくれた。
そして妹さんと一緒に祖父母がいるこの村へとたどり着き、暮らしていた。
しかし、妹さんは病で亡くなってしまったようだ。
「美味しい!!」
「ふふふ、たんと御上がり」
がつがつとポトフを頬張りながら皿を空にしていくリンクを見ながら自分もスプーンでじゃがいもを掬って口に入れる。
味が染み込んで柔らかく、すぐに蕩けた。
自家釜で焼いたというパンを千切ってジャムを付けて食べた。
材料は買った物でもおばさんが作った物で。これをお袋の味というんだろう。味付けが違う。
違う世界でも同じ料理があるとこう、感慨深いものだ。
「お口に合うかしら」
先ほどはこの村を去れと厳しい顔で言われたけど、今は子供に見せるような優しい母の顔だ。
自分達のことを思っての事なんだな。
『はい……とっても』
胸に沁みるような母の味だ。
今の境遇の自分を思って、少しだけ元の世界を寂しく思った。
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