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コキリの子





「うわぁ〜すごい!」

『あはは……ありがとう』



凄く、現実逃避したい。
しかしそれが出来ない状況にある。

それがこの少年。(まだ名前知らないから少年)

さっきまで描いてた絵をうきうきと見ている。そして何度も話し掛けてくるからおとなしく現実逃避が出来ない。いや、この子が悪いとかじゃないけど。寧ろぜんぜん良い子なわけで。ただ、自分が少々口下手だから……あーもう。



「お姉ちゃんは外のどこから来たの?」

『え、あ、えーとね………』



違う世界、なんて異常な事なんて言えずにただずっと遠い所、と答えた。
森の外を知らないのに聞いても分かるんだろうか。自分も分からないけれど。
具体的な場所を聞かれる前に少年に話を振った。



『君は此処に住んでるの?』

「うん」



絵を返して貰い、作業を再開する。とくに考えもせずふと思った事を口にした。



『そういえば、お父さんお母さんは……?』



いるの、そろそろ帰ったら良いんじゃないか、と言いかけて止めた。
この質問は"リンク"にとってきついか……。
しかし今の質問は確実に耳に入ったろうな………。思わず顔をしかめた。
その通りでリンクは少し影を落として俯いてた。



「……わかんない。でもオレの親代わりはデクの樹サマなんだ」



少し影を落としたが誇りに思うような、また表情を笑顔に戻した。



『その人は良い人なんだね。……ごめんね。変な事聞いちゃって』


リンクは首を横に振って微笑んでいた。
その親が樹だなんてまだリンクの口から聞いていないので人ということにしておこう。

心の中でもう一度ごめんねと呟いた。

心の中でまだ自分はこの現実を否定しているみたいだ。

確定的な材料は揃っている、けど少年があの勇者だと頭ではまだ理解していないらしい、してたらあんな事は言わない……と思う。せいぜい空似かごっこ遊びをしている子供程度である。

頭が熱で火照ってほわほわとしてるような…そんな感覚だ。



「デクの樹サマはね、色んな知識があるんだ」

『そうなんだ』




嬉しそうに育ての親について話すリンクを聞きながら、絵を着々と塗り続ける。答える言葉は単調だがちゃんと聞いてる。
時折休んだり、その親について簡単な事を聞いたりした。

絵を塗る際に紙に筆が滑る音が響く。
それも後少しだけで、絵が完成した。
ふう、と息を吐く。
此処だけ木々が開けてて、明るかったからちゃんと描けた。
多少気は散ったけど、リンクが幼いながらの気を利かせてくれたりしたので良かった。

先程まで晴れていた霧がまた訪れて、少しずつ辺りを覆っていた。



「あ、霧だ……。もう帰らないと…」



霧が覆ってくる前に帰らないとコキリの子も迷ってしまうとか。夜が近づくにつれて外の者を追い出すように来る霧。
ただでさえ周りは薄暗い森。
こちらも早く帰らなければ迷子になるかも知れない。


「お姉ちゃんは大丈夫?」

『うん、大丈夫』
「また………あってくれる?」

『え?あー…………うん。何時になるかはわからないけど…それでも良い?』



約束、してしまった。

少年は笑ってうんと頷き、駆け出した。霧は段々濃くなってくる。
足を止めてこちらを振り返る。



「オレ、リンク!お姉ちゃんは?」

『ユキセ。じゃ、またね』



リンクもさよならと言って背中を向けて去ると同時に
突然、突風が吹いてきたので目を閉じた。




* * * *




『……ワォ、ミラクル』


目を開けると霧は無く、空は茜色の空が見えた。
さっきまでの森とは違い、木の高さは低く見えた。
夢か……と思ったが、完成した絵と、外に出されたまま切り株に置いてあるスケッチブックがあれは現実だったのだと告げているようだった。

これが世に言う神隠しだったのだろうか。





だけど、
今高鳴っている心臓がこれはきっとまた会えるんじゃないかとやけに自信ありげに思えた。



『果たせる可能性が低い約束しちゃったよー……』



もし運良くまた会えたなら、何か持って行ってあげよう。


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あきゅろす。
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