路地裏
路地側は打って変わって静かな所だった。
別に特別綺麗な訳でも見た目金持ちな訳でも無いから物取りなんて寄って来ないだろう……。
それとも人身売買とか奴隷目当てとか?本の読みすぎかな。
臓物売るためとか……医療は発達してないから売る意味がないか。
一部の趣味の悪い人間がひとの肝臓で薬作ったりしてる奴とかいそう。
いや決してみずうみ博士やカカリコ村のおばあさんのことを言ってるのではなくて。
歩きながら片手に耳を触る。
気付いた時から気になってついちょくちょく長い耳を触ってしまう。
黒い髪に長い耳……なんて、さらに肌の色までも違ったらダークエルフみたいだ。
自分の中でもエルフは長い耳や金髪っていうイメージがある。
エルフと外見が同じハイリア人もみんな緑や金の色素の薄いカラフルな髪だからなんだか違和感がある。
『こんなので差別されたりしないよね……』
黒い髪はやはり不思議がられてたまに通る奥さんや子どもがちら見していった。
気持悪がられている視線ではないけどやはりどこか……奇異というか異質というか、動物園のパンダってこんな気持ちなのかなぁという感じ。
実はもう一点他とは違う点があるのだけれど、普段自分では見ない所なので気づけなかった。
はぁ……とため息をつきながら道を曲がると運悪くゴロツキのような男に当たってしまった。
「おい嬢ちゃん、よそ見しちゃいけねぇなぁ」
卑下た笑いを浮かべながら大男が見下ろしてくる。
ニヤニヤ気持ち悪く笑いながら舐め回すように値踏みをしているようだ。
キモい。これの一言に尽きた。
『す、すいません……』
けれどむやみに怒らせないよう口には出さずに敢えて臆病なフリをした。
どうにかして逃げないと。
「黒い髪は珍しいなぁ」
『い、いや、これは染めて……』
「ほぅ、そうかぁ?だが瞳も黒いじゃねぇか」
『いや……あの、これはカラコンで……』
「カラ……?なに訳分からんこと言ってんだ」
そうだ……ここじゃ元の世界で使ってた単語なんて通用しないんだった。
油断してるのかゆっくりこちらに伸びてくる腕を……無理矢理力強く振り払った。
そして反対側の来た道へ走って逃げた。
「待てこのガキ!!!」
『さっ、サーセン!!』
焦ってなんで謝ったのか自分でも分からないがとにかく逃げ回った。
わざと入り組んだ道を走ったが、それでも執拗に男は追いかけてきた。
ったく、しつこい奴……!!
樽に入れられたゴミ箱を倒して男の道を塞ぐ。
……くさっ!あぁ、あのおばさんごめんよ……。
長い間走り続けたが、息も切れてだんだん疲れてしまう。
しつこく追いかけてくるこのゴロツキの男を撒くため、路地を曲がった後すぐ側にあった樽などの物陰に隠れた。
がやがやと人のざわめきが聞こえる。この道の先は市場へと繋がっているみたいなので、気づかれることなくそのまま男は市場へと消えて行った。
『ふぅ……、ってリンク探さなくちゃ』
しばらく路地裏を歩くと上に登れそうなハシゴを見つけた。
もしかしたら上からならリンクを探せるかな……。
(使わせてもらいまーす……)
心の中で了承をもらいながらハシゴに足を掛けた。
そして上りきり屋根から城下町の広場を見下ろすと、
『うわぁ……凄いキレイ…』
上から見た景色もとても素敵で、元の世界でいうイタリアのパリの市場を思わせる景色がそこにあった。
携帯の写メでパシャッと撮って、それから久しぶりにスケッチブックを取り出して描いた。
もはやこの時点で頭の中にはリンクを探すというのは頭から抜け落ちていた。
……ごめんねリンク。
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