晴れた青の下
見上げた空はとても眩しくて、
いつの日か、現世での学校のグラウンドで
見た空と一緒だった。
『ここが外……』
誰にも聞こえない様にぽそりと呟いた。
とても広い世界。見たこともない景色。
巨大なビルが一つもなく空を遮る建物は何もない。
地平線まで見える大きな大きな平原……。
こんな世界のなか、人々は魔物に怯えながら暮らしたり、勇気あるものは剣を手に地を踏み締め進むのだろう。
緑の草原を揺らす風からは蒸れた地面の香りが混ざっていた。天気は快晴、太陽は既に動き始めている。
「広い……」
《ホント……》
『自分がちっぽけに見えるなぁ……』
空を大きく羽ばたけるようなだだっ広い青空を三人で味わっていた。
とても綺麗な大空。きっと元の世界の科学物質で汚され、酸性雨を流して大地を溶かす空とは大違いなのだろう。
どこまでも慈愛の恵みを生み続ける。
「う゛っうぅ……ぐすっ」
『てリンク!?どうした!?』
となりで鼻をすする音が聞こえて、だんだんそれが大きくなったかと思えば嗚咽を混ぜながらリンクは泣き出した。
え、え?ちょ、感動したの?
ごしごしと涙を手で拭おうとするがそれでは足りず、絶えずにぽろぽろと涙は落ちていった。
「うわあああぁぁああん!!!
コキリのみんなぁああああ!!」
突然大声を出して泣き叫んだリンク。子ども特有の甲高い泣き声に耳ががんがんと響いた。
こりゃ酷い。鼻水も一緒に垂れている。
「だっでぇ……でぐのきざま死んじゃっだし……グスッ!!!」
『リンク……』
わんわんと泣き続けるリンクにもらい泣きかまた目が潤んできた。
まだ小さなリンクには大きな決意だっただろう。
ただでさえ親代わりの木の精霊が死んでしまったのだ。リンクは助けたかっただけなのに……衰弱しきった命は元には戻らなかった。
欲しかったパートナーの妖精と外への自由との対価は重いものだった。
親を亡くした絶望感と森への寂しさに泣くリンクがとても小さく見えた。
こんな時何を言えばいいのか分からない……。
けれど何もせずにはいられなくて、しゃがんでぎゅっとリンクを抱きしめた。
嗚咽を交えながらきゅっと首に細い腕が回され、弱く抱きついてきた。
言葉を掛けるのが苦手な自分はゆっくり背中をぽんぽんと叩く。
真っ赤な顔には汗が滲んでじんわりと肩が暖かくなる。
『ごめん、私……言葉を掛けるのが苦手なんだ。こんな時なんて言えばいいか分かんないの……』
「ぐすっ、……ううんっ、!!だいじょうぶ、だがらっ!!」
リンクが泣き止むまでぽんぽんと叩く。
自分も涙が溢れてきてずびっ、と鼻をすする。
自分達の共通点は親がいないことだ。
親代わりがいるのも同じ。
ただリンクの親代わりは死んで、自分は世界が違うから会えないという点がある。
(まぁ、私は出来れば会いたくはないけど)
この世界は魔物などからお金が得られるから良かった。
絶対リンクを死なせてはならない……。
リンクは時の勇者なんだ。
未来でリンクは必要になる。
短い間だけれど、リンクを守ろう。
リンクの背中側、自分の視界に映る城を見つめた。
まずはハイラル城におわす姫君、ゼルダ姫に会うこと。
世界に帰るための資金も出来れば援助してほしいけど………ちょっと無理だろうなぁ……。侵入することになるだろうし……。
というか、とても異世界から来ましたなんて言えない……。
「姉ちゃん……ありがと……」
『いいよ。ほら、ハンカチ』
バッグからハンカチを取り出して目元や鼻を拭く。
まだ暗い顔をしているから、そのまま鼻を摘まんでぐりぐりしてやる。
「ふがっ!?姉ひゃんひたひ!ひたひよ!?」
『ふふ、可愛くてついねー』
笑いながら鼻を離してやればリンクも可笑しそうに笑った。
ずれた帽子を整えて両手で頬を押さえ込んだ。
『大丈夫?もう平気?』
「……平気!」
『よし、全て終わらせて……そしたら森へ帰ろう!』
「うん!さあ行こう!!」
あのハイラル城を指さし、笑顔に戻ったリンクは元気に走り出した。
目を閉じて元の世界を思い浮かべる。
育ての親は今ごろ警察に連絡して捜索願いを出してるだろう。
友人達は泣いてそうで、もし帰れたら怒りながらも抱き着いてくるんだろう。
そう考えるだけでひどく悲しく、寂しく感じた。
早く会いたい。
リンクはデクの樹の死の代わりに森から出て、世界を旅できる自由を手に入れた……。
辛いだろうけど、逆らえない運命というものは更に過酷な試練をリンクに与えるだろう。
自分は死ぬかも知れない。つい最近、今までただの一般人だったんだから。
けど死にたくない。生きたい。生きて元の世界に戻りたい。
それに死にかけた事なら元の世界でもあった。
きっと……大丈夫。
主人公であるリンクも一緒だから。
「姉ちゃん!ナビィ!早く早く!!」
『そんなに慌てると転ぶよー』
「わあっ!?」
《あ、転んだ……もう》
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