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命のお別れ





デクの樹サマから出ると、頭上から葉が落ちてくるのが見えた。



『あ……』



上を見上げれば力を失った萎れた葉や枯れた葉がちらちらと散っていた。
まるで秋の終わりと感じさせるような光景だった。

秋の終わりは命の終わり。
デクの樹の死期はすぐ目の前にあった。



「デクの樹サマ!!」

「デクの樹サマ!ゴーマをやっつけたよ!」




蔦を登ったりしてデクの樹の中から抜け出した頃にはもう空は日が昇っていた。そういえば自分達は夜中に戦ってたのか……。



『夜が明けたんだ………』

「ユキセ!大丈夫だった!?怪我は無い!?」

「頭打ったりしてないよね!?」

「全身打撲とかない!?」



ずっと待っていたのか皆少し眠たそうな顔の中で涙を流すサリアと涙は流して無いが今にも泣きそうな双子のリチェ、リカが向かって来た。



『うん、平気だよ』

「よかった…」



チビゴーマやゴーマにやられた傷もあの声のお陰で痛くない。怪我をしたことを悟られずに済んだ。

そういえばあの声がまだ謎のままだ。
誰だったのだろうか。聞き覚えの無い声だった。

と、癖の様にポケットに手を突っ込むと手に当たる物があった。それに気付き、そっと輪から脱け出した。


着いた場所は暫く行ってなかった森の中の切り株がある場所。
根元に穴を掘って、ティッシュで包んだ蜘蛛を埋める。
そして少しの間両手を合わせて黙祷。ゴーマをあのままにしておくのは可哀想だったからあそこから持ってきたのだ。
上手く持ってこれて良かった。
きっとここなら陽も当たり、亡骸を養分にして新たな芽を育ててくれるだろう。


もうしばらく此処に来ることは無いだろうけれど。


再び来るのは元の世界へ帰る時だろうか……、その時が訪れるかも解らないけど。
友達は心配してるだろうか………家族は大丈夫だろうか……。
様々な心配はある。
けど帰ったら二度とリンクやサリア達に会えなくなってしまいそうで恐い。


帰りたいけど帰れない。

帰りたくないけど帰りたい。

今の自分は不安で押し潰されそうだ……。




「ユキセ…………?」

『リカ……』




後ろから声をかけられて振り向けばさっきぶりのリカを見た。




「なにしてるの?」


『埋めてたんだ』


「埋める?何を?」


『デクの樹サマの中で暴れてた邪悪なもの……って言っても元はただの虫、呪われてたのが解けたから平気だよ』




埋めたあとを見ながら話す。
恐らく、リカは訝しげな表情をしてるだろう。
自分は表情を見ることが出来なかった。



「でも、デクの樹サマを苦しめたんだよ?」


『うん……、でもそうするようにかけられた呪い……だと思うから……憎みきれないんだ』




この行為はきっとみんなからしたら裏切りのようなものだろう……。いいや、デクの樹が死ぬという事を知ってたんだ。……知っていたけど結局デクの樹は瀕死の状態。



「……ユキセは優しいね」

『優しくなんかないよ』



諦めたんだ。

希望というものはあまり持ちたくない。持てば持つほど絶望を引き寄せるから。

あの声に自分よりもデクの樹を助けて欲しいと願えば良かったのかもしれない。

けど、しなかった。物語を変えるのが怖くて。

もう遠くでも聞こえていたあのデクの樹の呼吸が聞こえなかった。


優しくなんか、ない。




「………デクの樹サマのところに行こう?」


『………そうだね』



切り株に背を向けて、リカと一緒に歩きだした。



朝陽は眩しく、目を細めることしか出来なかった。
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