蟲の正体
本当だった。
本当に傷が治っていた。
こう、気づいたら痛みが無くなっててもしやと動いたら前よりも軽く身体が動く。
ついでに言えば肩こりとか無くなってて完全に健康体です。ありがとう、あしながおじさん(仮名)。
あまり感謝している時間はなく、リンクの絶体絶命のピンチだった。震える身体で必死にリンクを助けようとしてるミド。
少し微笑ましく感じたがやはりそんな暇はない。
ふと、視界に投げ出された剣が目に入った。
『目玉を狙え!!目玉!!』
剣を拾いながら走り、叫んだ。
ミドは自分が起き上がった事に驚き、対応に追われながらも石を投げる。
しかし当たらずにナビィにへたくそと言われてた。
が、まぐれか壁に跳ね返って目玉に当たった。
ゴーマが怯んだ隙に走る速度を上げてリンクへたどり着いた。
リンクに絡み付く糸を剣で裂く。
『リンク、大丈夫?』
「姉ちゃんのバカァッ!!一人で囮になんか行くなよ!!」
《そうだよ!!大丈夫!?酷い怪我はない!?》
二人にそう大声で叫ばれた。
分かってる、分かってるから。結果的に状況が悪くなっちゃったしね。
ナビィは忙しなく自分の周りを回ってあちこちを見ていた。
マジ泣きのリンクと光を赤く点滅させて怒るナビィに軽くごめんとリンクの頭を撫でながら二人に謝った。そんな自分の対応にリンクは膨れっ面だが、ほのぼのしてるほど今はそれどころじゃない。
逆にミドがピンチだ。
『リンク、弾は?』
「一つだけなら……」
『百発百中をヨロシク出来るかな?リンクならやれる。落ち着いて、私もいるから』
「……うん!」
次に怯んだらこの剣で止めを刺す。
せめて、これ以上苦しまない様に。
何故なら、ゴーマも被害者だからだ。
「せいッ!!」
ゴムの力で飛ばされた弾はゴーマの目玉に勢い良く当たり、
衝撃を与えると閃光を発する性質があるデクの実は怯ませるのには充分な役を買った。
大体目にお酢が入った以上の威力で悶絶しているところを狙って走る。
漫画やゲームの見よう見まねで助走を付けて走り、それほど重くない剣をゴーマの目玉に突き刺した。
柔らかな感触に気持ち悪さを感じつつ、
そして瞬時に引き抜き後退する。
ゴーマを見つめながら恐る恐るこちらに走ってくるミドを背中に追いやる。
「ユキセい、生きてたのかよ……」
『この通りね』
ゴーマは唸り、煙を撒き散らしながら身体がボロボロと崩れ落ちて、最後には小さな蜘蛛の死骸だけが残った。
「これがゴーマの正体……?」
「ただのちっちゃな虫じゃねえか……」
こんな小さな虫があそこまで凶暴化する……改めてガノンドロフの力に恐怖した。
身震いが剣に伝わる。
《大丈夫?ユキセ》
『うん……』
「……そういえばお前、壁に当たって動けなかったんじゃねえか!」
「あっ!そういえば!」
『大丈夫大丈夫。気絶してただけだから』
だから少し痛い振りをする。
あいたた、てな感じで。
『忘れてた痛みを思い出させないでよ、全く……これだからミドは』
「俺のせいかよ!!」
うん。
とりあえず、外で待っているサリア達とデクの樹の為に外へと帰還することにした。
リンク達ははやくデクの樹に会いたいので足早に出ていく。
自分はただ、喜ぶリンク達の顔を見てるしか無かった。
「ユキセ?大丈夫?ゆっくり行く?」
『……ううん、大丈夫。ちょっと疲れちゃっただけ』
「…ほんとに大丈夫?顔色悪いし…」
『……平気!ほら、出口まで競争だー!』
「はぁ!?なんでお前ら元気なんだよー!!」
無理矢理作り笑いして悟られないように走った。
何で弱点を知ってたんだと聞かれた時、自分はどう答えられるかな。
原作で知っていたから、なんて言えない、言える訳がない。
もし自分が存在しない、なんて言われたらどうする?架空だと、空想の産物だと、生きてないと、死んでもいないと、無だと、そう言われたのと同等の言葉。
けれどこの世界はある。
存在している。
呼吸をして、時には笑い、泣き、怒る人がいる。
生があり、死もあるこの世界。
この矛盾を理解出来る事が出来るだろうか。
そして、
元の世界へ帰れる日が来るのだろうか。
今この脚が歩けば歩くほど、どんどん自分がいた世界から遠ざかっているように感じた。
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