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森の奥深くで








サラサラ……と流れる気持ちのいい水の音が耳に届いた。


今日、友人を連れて森へと訪れた。
美術部の部活動の一貫として毎年夏休み前に参加しているコンクールがある。そこに出す作品を描きに訪れたのだ。

テーマは「自然」。自然って感じが出ていれば何でも可と言う顧問のお達し。

まあありきたりなテーマだけど自由なよりはマシかな。テーマが自由とかマジで何を描けば良いのか迷う。ピカソチックな絵を描くぞ、キュビズム満載の。とか言いつつも普通のを描くわけだけど。


此処は県の奥地だけれどレジャースポットとしても人気な場所で自然が溢れており、訪れるだけで心が癒される疲弊した現代社会を生きる人にとって憩いの場…とかなんとか。



「何処で描くよ?」


『あー、うーん……』


「同じ場所で描くのはあれだしなぁ…、一旦別れようか」


『ん』



確かに同じ場で描いても詰まら無い。それに頷き友人とは別の道を歩く事にした。
画材道具を持って川に沿って適当にふらふらと歩いてた。


川に沿っても描きたいと思う場所が無く、このままだと日が暮れてしまうので
一先ず切り株に座る。


目の前には多種多様な植物が生い茂っていた。しかし、自分が飽きずに細部まで描けるかは別の問題だったり……ι

ガンバ、自分。



* * * *




『〜♪』

ヘッドホンをしながらさらさらと規定のサイズの画用紙に下書きをする。葉の枚数が多い所とかはしょって適当に、岩を描き、樹を描き、地面を描く。


自然のBGMを聴きながら描く方が集中力的にも良いんだろうけど、JPOP系の曲が聴きたくなったので。


描いては消しゴムで消して納得する構図を練る。失敗しながら正解を見つけるようにして、描く。消しゴムは柔らかいタイプの物が紙が痛まなくて良い。
暫くして下書きは完成し本格的に色を塗ろうとしたところ、


それは起きた。



――……。



ふと顔を上げると辺りは薄く霧に覆われていた。なんだか不気味だ。それに空気も変わった様な………。
こう、フッ……みたいな。
目の前を白い光みたいなのが漂う。



……ん?白い光……?



気づけば周りには無数の白い光が雪の様に、この霧の中で神秘的に舞っていた。



『………えい』



触っても突いても溶けずに逃げていった。
疲れが出て幻覚でも見えたんだろうか……。といってもそんなに疲れた覚えない。まず幻ではないだろうか?これ。
エクト……プラズムとかいう光だろうか。
この光は。


いや、簡単に目に見える代物では無かった気がする。
この世に生を受けて14年。霊能力が開花したとか?やったね。
………違うか。



フッ……て感じに何かが変わった感じがしたのは覚えている。感覚的に。
この場の空気なのかどうかは解らないが……。
地震でも起きたとか?電波的な何かとか。



いろいろと考えに更けていると後ろからガサッと物音が聞こえ、
思わずビクッ、と肩を揺らした。



(友人………とか?
いや、アイツは集中したら色んな意味で人の話を聞かない奴だし……。…今集中タイムだろうからこちらには来ない、か……)



残るは……不審者?
一般人なら声をかける、筈。眉を潜め、ヘッドホンの音量を小さくしながら考える。
そういえば風の噂で聞いた事が二つ。

一つは神隠し紛いの事件。
自分が生まれる前に起きた事件で子供が急に消えたというもので捜査に手詰まってそのまま時効、お蔵入りになったという。

一つは先週起きた痴漢事件。
因みに襲われた女性は勇猛果敢でその痴漢を習っていた体術で張り倒し、痴漢は逃げたとか言う……突拍子も無いもの。

嘘か本当かは解らないが、どちらもあったら嫌だ。
そして、後ろにいる不安の根源は確実にこちらへと歩んでいるだろう。


下敷き代わりの板を強く握った。
そして大きく振り返り板を振るった。
しかし今日、この時ほど後悔したものは無かった。




不審者と決め付けていた人物は子供だと気付いたのは板が顔面に直撃するまであと1.2秒前の時だった。





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あきゅろす。
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