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平穏は崩れ去る





帰れない、ということは
物語に巻き込まれる、ということ。




リンクが魘されることがなくなった後、今度は自分が眠れなくなってしまった。

あらどうしよう。

昔もよく眠れなかった時あったなぁ。




『風が気持ちいい………』




半袖だと少し肌寒いけど。

目が冴えてしまったから夜空を眺めようと外に出た。

無駄な明かりの無い中の夜空は幻想的で星がとても輝いていて魅せられた。

ハードの問題か、原作では月しか見えなかったけど星は存在していた。

現実世界も田舎辺りまで行けば空はきっとこんな風なのだろう……。




もっと見ていたかったのにだんだん雲が掛かって、雲行きが怪しくなってきたからそろそろ寝ようと思い、腰をあげると道で誰かが歩いているのをみた。



(…?……誰だろ……)

暗くてわからないけど、


背が高くて黒い……


髪も…黒でもなく赤っぽい…



あれ?
………自分以外の外の奴は森には入れないはずだよね…。


黒……赤………。


もう少し顔を見ようと思って目を凝らす。

あ……れ……?



『……ッ!!??』



思わず家の中へ隠れる。
胸に手をやればドクンドクンと何時もより速く鼓動が鳴る。



『…(何で………あいつ…ガノンドロフが………!?)』



おかしい…おかしい……!!

魔術でこの中に入れるのか?
それほど奴の力は強いという事なのか?

疑問は深まるばかりだ。

嫌な汗が手の平にじわりと滲み出てくる。

そんなことにもお構いなくガノンドロフは歩き続ける。


狙っているのは、デクの樹。
いや、コキリの翡翠だ。
物語が動き出した、と確信した。

家の梯子を降りて木々に隠れながらガノンドロフを追う。
外はざわざわと木々がざわついていた。まるで森の危機が迫っていると知らせるように。


デクの樹の元へたどり着いた。


様子をうかがうと何やらデクの樹と話していた。



「ゲルドの黒き民よ………早くここから立ち去れ!
おぬしの力は森に影響を与えてしまう!!来るべき場所では無いのだ!」
デクの樹がこっちにも聞こえるくらい叫ぶ。
普段聞かない剣幕だ。
ガノンドロフがまた何かを話している。
多分宝石を差し出せと言っているのだろう。



思わず足を出す。

いや、今行って何になる……?力の無い人間が一人でガノンに敵う訳がない……。
ラスボスという脅威に戦いとは無縁だった自分が立ち向かえる訳が無いんだ……。

無謀。

この言葉が一番しっくりくる。出かかった足をゆっくり戻してしまった。


やがてガノンドロフはデクの樹へと寄生したゴーマを残し去って行った。


去っていくガノンドロフを見てたら
こちらを向きそうになったので慌てて隠れた。
多分、暗くて解らなかっただろう。

完全に去った後、デクの樹へと向かった。
寄生されて元気が無く、眉が垂れ下がっていた。



『……い、今のは?』



知らないふりをするのがとてつもなく辛い。



「砂漠に住まう盗賊王、ガノンドロフじゃ……恐らく魔術で中に入られたようじゃの…
お前さんは大丈夫かい……?」



こんな時でも人の心配するのもこの人らしいけど。
その言葉に頷く。



「う、む………身体の中にヤツが入りこんで…まるで身体の自由が効かん…」



ゆっくりとデクの樹を触る。感じてた暖かさが少ししか感じられない。



物語は始まった…。


知ってたのに。


こうなること知ってたのに…。

無力、


そう感じずにはいられなかった。



ギリ、と手を痛いほど強く握りしめた。



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