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悩み





外の世界のことを教えてとせがまれて、口下手な自分がただでさえ本当の外の世界を見たことがないのに話せるか分からなくて。


けれどリンクを除いてみんなコキリの森から出られないのだと思えば多少適当や脚色を加えても平気かなと思えてしまった。
けれどコキリの森からは出られないというのは事実なのだから致し方のないものだと思う。

斯くして外の世界のお話をたまにデクの樹からも話を合わせてくれ、助けてもらいながら話をした。
自分も世界中を回った訳ではないと最初に言って。
これである程度言い訳も出来る。

デクの樹は「はて、そうじゃったかの?」なんてうそぶいてこちらをからかってきたりした。
良い性格してるよほんと。あ、自分もか。



『いいのかな……こんなんで』



誰も聞いてないから独りごちる。
デクの樹に助けてもらいながら自分の知っている限りの知識で外の世界の話をしているとき、ふと思った。

自分はなんでこの世界に来れたんだろう。

普通、世界を越えるだなんて可笑しな話だ。
それをしちゃったのが自分なんだけど。


デクの樹はその遠くを見渡せる目で見れるし、自分よりも長く生きている。
この世界の歴史にも詳しい。



「なにやら元気がないのぉ」




昼寝中のデクの樹が気づかれないように静かに背中の方へ腰を下ろし体育座りしていたのにいつの間にか起きていたようだ。

ミドの手下達の監視なんてちょっと頑張れば簡単にすり抜けられるものだ。所詮相手は子供だし。

ふわぁとあくびをかきながら静かな声が自分だけに聞こえた。



『……わかんない』



膝に顔を埋めてうそぶいた。

いや、実際に分からない。
状況、世界、周りの環境、全てちがう中での悩みなのだ。

そう答えたら木々がゆらゆらと自分を心情と同じく風で揺らぐ。



「ほう……困ったのぉ。分からないんじゃ、相談に乗るも乗れんのぉ。

若い者の悩みを聞くのが老いたワシの楽しみじゃのに」



何を言うんだかこの老木は。
有りもしないことを言ってこちらを困らせて笑っているくせに。

少しイラッとしたが努めて冷静を保った。
落ち着け自分。
別にキレに来たんじゃない。



「ユキセよ」



空から名前を呼ぶ声が降りかかる。


「お前さんはコキリ族の子供達よりも大人……自然としっかりしないとと感じてしまうじゃろう。
だからと言って、悩みを抱えたままは心に毒じゃ。

ワシは樹じゃがお前さんよりも長生きしておる。
どうかこの老いぼれに悩んでいる事を話してごらん」


『…………なんで私……異世界に来れたのか、

なんで帰れないのか……。

なんで私なのか……。

全部分かんなくて……こんがらがっちゃった』


ホームシックなのかな。
環境、世界、まるごと変わった中、誰かに言われることもなくそこで暮らさなきゃいけなくて。



『環境はちがうし……』



電化製品もない、テレビもない、電波も通じない。
帰れる家もない。当たり前のように建っていたビルもない。友人もいない。

同じ文化を共有しあえる人がいない。
何かの雑誌で見たことがある。
孤立した民族。勿論他とは文化レベルも違う。
その民族の人を都会にいきなり住まわせる。
勿論言葉も違うし文化も違う。
そんな中で人間は暮らすことが出来ない……と。



『私……人と接するのが苦手だし……』



言葉は不思議と通じていて、何故か文字も読めるし、リンクやサリア達は事実よそ者である自分を優しく歓迎してくれる。

けど、なんとなく自分は独りだった。
世代も違うし、世界も違う。だからか自分のことを話すことはあまり出来なくて。



「ふぉふぉふぉ……」



ぽつぽつと頭からわき出てくる言葉を口に出してるとデクの樹が急に笑い出した。
これでも悩んでんだぞ。言ってきたのはそっちなのに笑われるとは……。
睨み付けると気づいたのか笑いをこらえる。

「急に笑い出してすまんの……。

ふむ……まず一つ。

ユキセ、それは誰にもあることじゃ」

『誰にも……?』

「ユキセのはちょっと壁が大きいがのぉ。

生きる者はの、みんな知らない者と面と面とで会うのは恐いんじゃよ。

相手は生まれた環境、生活、気持ち。その表面に見えないものが何も分からない。
だから恐いと感じてしまう。

だから知る、知ろうとする。
今、ユキセはここにいるんじゃ。
知ってもらうのは恐いじゃろう。しかし知って、理解してくれれば恐くもなんともない。
逆もまた然りじゃ。

知ってもらうことを恐れてはいけないよ。

ゆっくり、少しずつでいい、知ってもらいなさい」



『……うん』



「次に二つ。

異世界から来た、なんて話は確かに嘘だと言われるかもしれん。
出来れば隠した方がいいじゃろう。
けれど、もし信頼出来る者を見つけたら戸惑うだろうが打ち明けてみなさい。
きっと信じてくれるじゃろう」

『……ホントかな』

「この老いぼれの話も信じてみるもんじゃぞ」



そう言うデクの樹に自然と笑みが溢れる。

するとコキリの森へ通じる道から声が聞こえてきた。



「あ、姉ちゃんいた!」

「もう、ミド達が邪魔しなかったらもっと早く見つけられたのに」

「あははサリアってば腹黒ー」

「ユキセーみんなでまたあの遊びしよーだって」




リンクとサリアに普段インドア派というリカとリチェも一緒にいた。



「ユキセデクの樹サマと何話してたの?」

『人生相談……かな?』

「リチェ、恋バナかもよー」

「えーっ誰か好きな人いるのー!?」

『え、ちょ、ま』

「え、ちょ、まっていうの?」

「多分違うと思うよリンク。でもサリアも聞きたいなその話!」

『……どっちも違うカラ』





ギャーギャーと騒がしくなるなか、デクの樹は小さく呟いた。



「全ては偶然であり、必然でもある……か」



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あきゅろす。
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