西へと傾く陽を浴びて
ゲームでやった際に流れるあののどかなBGMを脳内で再生しながら風車のある小屋の屋根の上で村を眺めていた。
羽が回転するたびに静かに低く、唸るような音が鳴り小屋の中では歯車の回る音が聞こえた。あの人はこの音に紛れてまた嵐の歌を奏でているのだろうか。
『良い村ですね』
「なんだ、気づいていたか」
『俺だってそれなりに頑張って力を付けたんですから少しくらいは』
人1人くらいの気配はちょっと読めるようにはなったさ。
それ以外はリンクには全く足元及ばないですけど、と付け加えて。
インパなら、もう分かってしまってると感じたのだ。そう勘が訴えていた。
あの時マスターソードをインパに見せた訳を。
ハイラルの紋章を見せればリンクがマスターソードに認められた時の勇者であると説明できると同時に自分達がハイラル王家に関わりのある人間だと表せるからだ。
性別も姿も変わってるから不安だったけど。
変幻の魔法を使ってゼルダをシーカー族のシークへと偽らせた張本人なら化けたこともなんとなくなら理解出来るかなと、かなり無理のある博打に近い行為だったがさすがシーカー族の末裔、体術剣術といい敵なら全く歯が立たなかっただろう。
味方で良かった。本当に。
今は魔法が扱えるし男の姿だから鍛えてなくとも腕力とかはなんとかなっているものの、普段の女の自分ならものの数秒でダウンしているだろう。
いや一秒ももたなかったな。
「お前の洞察力、判断力はリンクより良い、戦闘においてそれは重要なものだ。時によって冷静な判断力こそが勝敗の分け目にもなる、養って損はない」
『判断力……』
「だが男にしては軟弱な体つきだな、魔法に頼るのは筋肉がないからだろう。もっと肉を食って筋肉をつけろ、それではすぐにお陀仏だぞ」
『う、うぅ……善処します』
「無駄なこと考えずに肉を摂れ」
『……はい』
肉を摂ると太るという女子的な思いが強くてつい控えめになってしまうのだ。コレステロールとか、炭水化物とか……。
あんなリンクみたいにガツガツ食えるほどお腹も空くわけでもないし……。
しかしこの世界では元の世界と同じ肉を食べずに力だけを付ける、という理屈は通らない……諦めて摂った方がいいのだろう。
筋肉を維持するのにたんぱく質は大事だよね。
「ソウマ、お前は……」
「おーいソウマー!」
『ん?あ、リンクか。すいません、インパさんさっき言いかけたのは……』
「……いや、なんでもない。リンクの元へ行くといい」
『そうですか……?じゃあ失礼しますね』
自分が……の続きの言葉が気になるけれど、これ以上は教えてくれそうにないので素直に従った。
『なんだよ』
「なぁなぁ一緒に墓地でレースしようぜ!」
『レース……?』
「昨日夜中に墓地行ったら墓守りの人からフックショット貰った」
ほらと見せて来るそれに、ならもう行かなくてもいいんじゃないかと思った。
リンク的には楽しかったらしいのでもう一度遊びたいらしい。
墓地なのに罰当たりな……。
というか幽霊になっても楽しそうだなあの墓守りの人。
しかしやっぱり罰当たりな気がするのでやんわりと他の幽霊に迷惑が掛かるを伝えて墓レースを断念させた。
まあ霊といってもポゥしかいなさそうだけど。
『そういえば……リンクは村から出たらどこに行くんだ?』
「あぁ、とりあえずモーモー牧場に行こうと思う」
『牧場に?そりゃまた何でだ?』
エポナ貰いに行くのか?
たしかあそこはインゴーがタロンを追い出して支配してるんだったか。
タロンはどこにいるんだ?カカリコ村にいるはずなのに。ということはまだ追い出されていないのか……。
……まぁ今までのタロンの怠けっぷりを見ているとああなるのも仕方ないような気がする。
マロンとイーゴー以外仕事してるの見たことない……というかミニゲーム屋みたいなのしてた。そりゃ怒るわ。
「あそこに知り合いがいたから……今、どうしてるかなって。それから水の神殿に行こうかなって」
『水の神殿か……場所は?』
「まだ分からない……」
『……そうだな、ハイラル湖にならあるんじゃないか?』
「どうして?」
『水の……っていうなら水関連はあそこくらいだろ?たまにあそこにゾーラ族もいたし彼等なら何か知っているだろうよ』
《ソウマって物知りなのネ〜》
『まぁ伊達に旅はしてないからね』
もっともらしい台詞を吐いて誤魔化す。
ゲームで知っているだなんてどうして言えようか。
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