稽古
「ナビィ、ソウマが白くなりかけてる」
《燃え尽きたのよ、そっとしといてあげましょ》
カカリコ村に滞在して既に3日が経とうとしていた。
リンクと一緒に(無理やり)特訓させられて、体力のない自分は既に灰と化していた。
リンクもキツイ特訓に根を上げていたが、自分はそれ以上だった。
死んだ。(チーン
井戸に腰を掛けて休憩を取った。
『……この身体でも一気に体力が上がる、だなんてことはないんだよな』
「なんか言ったか?」
『ううん、ぜんぜん』
男の姿なのに体力はそれほどない自分はリンクよりだめだった。インパにも若干呆れたような表情をされた気がする。疲れて地面ばかり見てたからアレだけど。
立ち上がり、軽いストレッチをする。
ビキビキと凄い音が聞こえてリンクが目をまん丸にしてた。
……自分だって驚いた。
インパの指導のもと、リンクは見る見る内に上達していた。
僅か3日でだ。才能があったからこそ、正しいやり方で教わったから眠っていた才能が呼び覚まされたのだろう。
今日なんてインパから一手を取るまであと一歩のところだった。
やっぱりリンクは凄い。
……自分が出る必要はあったんだろうか、そう考えてしまうくらいに。
ふと視線を感じ、井戸の中を見る。
しかし何もおらずさっきの気配は気のせいなのかと首を傾けた。
「ソウマ……てどうした?」
『……いや、何でもない。なにか用?』
「なぁ、俺ソウマとも試合してみたいんだ」
『俺……と?』
「もっと色んな相手と戦って強くなりたいんだ」
『……そう。いいよ、休憩も取れたし』
剣を持ち、人の少ない場所へと行く。
墓場の近くなら大丈夫だろう。ナビィはあそこが苦手らしく一緒にはついて来なかった。
「じゃあ、はじめよう」
『ああ』
剣を構えてリンクへと走った。
『っあー……』
数十分は経っただろうか。
疲労と痛みでドサリと倒れこんだ。
暫く動けなさそうだ。もう一つ音がしてそちらに顔を向ければリンクもすぐそばで一緒に倒れていた。
「ただの打ち合いって言っただろー……」
『……わりぃ、つい熱くなって……。でもリンクが勝ったじゃん』
「ギリギリな……というかそれで体力ないとか嘘だろ…」
『ほんとだよ……殆どは受け流してたろ。それに前に稽古付けてくれた人がいたけどあの人と比べたら……ハイラル平原一周しても息切れしなさそうな人だから』
「比べる人間が可笑しいよ……」
ぼんやりと空を見つめながら息を整えた。
嗚呼あの雲がドーナツに見える。
あー、まだ腕が震えてら……。
それが目に付かぬように立ち上がって、
リンクに一言言って先に充てがわれた部屋に戻った。
* * * * *
『……嘘だろ』
真剣だったからとか、必死に誰宛かもわからぬ言い訳を考えてた。そんなもん考えたってしょうがないじゃないか。
つい熱くなってとか、嘘だ。
確かにリンクとの打ち合いは良かった。
けれどあの時。本気で…………。
本気でリンクを殺そうとしてた……。
リンクの隙を見て攻撃へと転じた時、首へと刃を振るいかけていた。自分の意思でじゃないし、もちろん自分にリンクへの殺意などあるわけないし。
すぐさまそのことに気付いて手首を曲げた。
リンクが上手く避けられるように。
多少手首を痛めたが、幸い殺気など出していなかったので(そもそも殺す気などあるわけがないし)気付かれぬままリンクは避けてくれたのが幸いか。
そのままなら、今ごろ酷い惨事だった筈だ。勇者死亡とかあり得ない、あっちゃいけない。
震えた手で顔を覆う。恐怖に唇と歯が震える。
思い出す、嗚呼ぜんぶあの男の所為だ……。
するりと入り込んだ殺意。
かつてあの時、
自分へと向けられた殺意だ。
燃え盛る炎の中でニタリを笑むあの男。
純粋なる殺気。
喉を握り潰されそうになる感覚を覚えた。
元から勝つつもりなどなかったが、なお圧倒的な“力”。
どこまでも執拗に狙ってくる、あの目が恐怖だった。
浅黒い、赤髪の男……。
『…………ッ!』
想像でしかないのにゾクリと背筋が凍った。
あれは恐ろしい存在だった。
殺すことになんの疑問も持たず女子供でさえも容赦せず殺戮を繰り返し、あれほどの力を持っているにもかかわらずまだ力を得ようとする貪欲さ。
あんなの元の世界に、いや日本にはいるわけなかった。
もしかしたら赤道付近の中東にはいたかもしれないけれど。
いや、でも治安が悪かろうがああまで純粋な悪を出せるだろうか。
必ずまた、あれと対峙することになるだろう。
…………こんなに怯えてたら駄目だ。
しっかりしないと。
「ソウマ、おばさんが夕飯出来上がったってさ」
『……あ、ああ』
「……?
どうした?なんか悩みごとか?」
『……いや、どうしたら勇気が持てるかなって』
「考えずに突っ込む」
『それを無謀って言うんだよリンク……』
なんだかリンクの能天気さに若干ホッとした気がする。
けどこんな考えで本当にこれから大丈夫なのか不安になってきた……。
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