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優しい人






《よお、久しぶりだな!》

『……ダルニアさん?』


果てのない天井へと上る光の粒子が流れる空間の中、懐かしい野太い声が聞こえた。
ここは……賢者を目覚めさせた後に来る場所じゃないのか?
目の前にいる岩のような巨体に問えばそれは違うと答えた。



《違うゴロ。ここはお前の精神の世界だ》

『精神の世界……え、ちょっと待って。
分かるの?』

《分かるもなにも、ユキセの精神世界に入ったんだからお前がユキセだということくらい分かるにきまってんだろーが。ま、リンクとちっこい妖精は分かってないみたいだがな》

『そ、そう……』

《全く……最近の若者と来たらダラシのねぇ奴らばかりだゴロなぁ!はじめて会った時の威勢は何処に行ったゴロ?
リンクにも叱ったがお前にも一発バシッと言ってやんねえとって思ってなぁ、自ら赴いてやったってワケよ。ちょうど気絶してるしな。

お前、自分は死んでもいいと思ってるだろ》

『っ……!』

《図星ゴロ?》



肩がビクリと震えた。
ダルニアの表情を見ると眉間にシワを寄せて額には血管が浮き出ていた。それほど彼は憤ってるのだ。



《実体があれば、力いっぱい殴ってやったゴロが……。お前が死んで何になるゴロ!》

『っ……でも、呪いは体を蝕んでいくばかりです。この呪いが全身に回ったらどうなるか分からない。
助けになりたいのに……助けられないかもしれない……!
賢者でさえも分からない……女神でさえ正確な答えを出さなかったんだから。

この世界の住人じゃないことぐらい、もう分かってるでしょ?……これは現実から逃げようとした私への罰なんだよ』



年相応には思えない、諦め切った声を小さく吐く自分にダルニアはすっかり黙ってしまった。

現実という重みは誰もが背負う物だ。
けれどそれは人によって個人差がある。軽い物もあれば重い物もある。

自分のはまだ軽い内に入るのだろう。
けれど力のない自分はそれすらも重たく感じてしまっていた。
それに逃げてしまったんだ。


『でもね、このままにはしたくない。この優しく、美しかった世界をこのままにしたくない。
だから、自らの肉体を捨てて賢者になったんでしょう?炎の賢者ダルニア』

「……まぁ、倅を残したくはなかったがよ」

『でもいつかはあの子も理解してしまいます』


一族のために、世界のために肉体を捨てて賢者へと目覚めたその意味を。
死んで、二度と会うことは叶わないことを。



「そうだゴロ。でもその時は元の平和な世界に戻った時にしてやりてぇ。
こんな憂鬱になる曇り空より晴れ晴れとした晴天の方がいいゴロ。

それによ、リンクのあの憔悴し切ったツラ見てたら他人事には思えなくてな。あんなの1人にしてたらいつか押し潰されるに決まってるゴロ」

『……リンクはあの後どこへ?』

「頭を冷やしに行くってよ。あいつにもガツンと言ってやったから大丈夫だろ」


なんだか途中で倒れてそうな気がするけど。
確かに違いねえと威勢の良い笑いをしながら些か乱暴な手つきで頭に手を置いてきた。


『うわっ』

《だからソウマがいるんだろ?もしそうなったら俺の代わりにガツンと言ってやれゴロ!あいつのたった1人の姉貴分なんだからよ!》

『……うん、善処します』



もう時間なのか、眠気が襲いかかり意識がだんだん薄れてきてきた。
うつらうつらとして目蓋が重くなる。



「もう時間か……ソウマの力、しっかり役立ててやるゴロ、けどお前使いすぎるなよ。
闇……ガノンドロフがいつ狙ってくるか分からねぇ。気をつけろ、今でも執拗にお前を狙い続けてる」

『……分かった』



あの赤い目を思い出してぞくりとした。
大丈夫……もう今まで逃げてた自分じゃない。



「ソウマ……死ぬんじゃねぇよ」



微かに聞こえるダルニアの声と共に視界はぼやけ真っ白になった。




* * * * *






なんか、最近もこんな展開があった気がする。



『……』

「やあ、目が覚めたかい」

『……以前もこんな状況あった気がするのは気のせいか?』

「奇遇だな、僕も同じことを思っていた」



相変わらずの膝枕で、口元を隠した顔は少しだけ笑みを浮かべていた。
なんだかその表情が意外で目を丸くした。



『……笑えるんだね』

「失礼だね。僕だって笑える」

『いやだって、無表情なことがよくあるから』

「誰もいないところで笑うのもおかしなことだろう?」



何を言ってるんだ?と片眉を上げて変な顔して言うから少し笑ってしまった。
なんか甘い雰囲気醸し出してるけど見た目男と男、実際は女と女ですから。
相手はめっさ美形だけど。ああ、自分も今は見目麗しい顔してるんだった。



『こんな世の中だからかな、笑ってた方がいいじゃん』

「こんな世の中なのにかい?」

『だからこそだよ。悲しい表情じゃいいことなんて何も生まれない』



涙を流すヴァルバジアが脳裏を過ぎ去る。


つい最近の出来事だから鮮明に思い出してしまい、鼻がツンとした。
またダルニアに怒られてしまいそうだ。
思い出しちゃダメだ。前へ行く脚が立ち止まってしまいそうになるから。

するとなぜか呆れたため息が上から聞こえた。



「自分で言ったそばからなんで悲しい表情になる?」

『はは……、ごめん』



泣き顔を見られたくなくて腕で目を隠した。
泣きたくなんてないのに出てきてしまうそれに軽く苛立ちを覚える。出さないように強く目を押さえつけるけれどただ目蓋が痛い。

頭を優しく撫でる感触がした。
優しい、とても優しい手つきだ。



「……笑顔も良いが涙を我慢することも、この世界には必要ないと思うけれど。
僕しかいないんだ、うっかりにでも泣いてしまえばいいじゃないか」

『……泣いてどうするんだよ』

「なら溜め込んでどうする?それで何かが解決する訳でもないだろう。
亡くなった友の為にも泣いたらいい。今の世界に咲く花などない。手向ける花の代わりに泣いてあげなよ」

『………っ』



男としては情けない泣き方だけれど、シークはただ何も言わずにいてくれた。


なんで、恨んでくれたほうがいっそマシなのに「ありがとう」って言えるの?

短い時間一緒にいただけなのに、私達に会うまでだって人間に酷いことされてたのに。
助ける努力もせずに見殺しにしたのに。

なんでそんな優しい表情で言ってしまうんだ……。




* * * * *



『あの……その、ありがと』


だいぶ泣いて、泣いたところを見られたからか気恥ずかしさに少しよそよそしくなってしまう。

謝罪を入れつつ起き上がって目元を拭く。
あー、だいぶ泣いた。久しぶりかもこんなに泣いたのって。
今までいろいろ溜まってたからかな。




「……そういえば、前から思ってたが君は何者だ?女神と同じ名を名乗る少女もだ。君たちは謎過ぎる。

魔法を嗜む程度と言っていたがあれは相当力がないと使いこなせないだろう?
それに君は何を知ってるんだ?」



『………ただの旅人ってのと、……今はちょっと教えられない。
けど言えることはひとつ。俺は世界の味方だってこと。ゆえに時の勇者とシークの味方でもある』

「世界の味方?」

『そう。ま、ガノンドロフに反抗しようとしてる愚か者みたいな?そんで一発ブン殴ってやろうとしてるみたいな?』

「みたいな……ってずいぶん大胆な発言だね。
僕がもし敵だったらどうするのさ」

『何をいまさら。シークは敵じゃない。やるなら気を失ってる時に殺ってるだろうしこうして二回も膝枕してくれたし』

「もしそれさえも絆すための罠だとしたら?」

『あははそしたらちょっと一発殴るよ。けどなんだかんだでシークは優しいからさ、考えられないよシークが敵だなんて』

「……君は変なところで抜けてるよね」



そう失礼なことをのたまったシーク。
失礼な、本当の気持ちを述べただけなのに。



『抜けてるのはシークの方だと思うけどなぁ』



膝枕だし膝枕だし膝枕だし……。男に膝枕っていうのも可笑しいと教えた方が良いのだろうか?けど意外と寝心地は良い……って変態みたいだ。
ふと視界に小さな光が通り過ぎた。



『そういえばここは……』

「妖精の泉。人を助ける妖精が自然と集まる場所」



桃色の光を持った妖精が湧き出る泉に集まっていた。
原作で何度も利用していたけれど実際に見るのははじめてだった。
綺麗な光景に少し魅入る。



「何なら一匹ほどビンに詰めたらどうだ?」

『え、なんか虐待してるみたいに思うんだけど』



そう言えば奇妙な目で見られた。いつもそこらへんにいるしギリギリまで使わない派なんで。
ゲームでは見つけたら即座にビンを振っていたがそれを現実でやるとなると少し気が引けた。



『それに……俺が近づいても逃げるだろうし』

「彼らは人懐っこいから平気だ。ほら」

『え、ちょ』



シークに手を引かれ泉へと引っ張られる。
今の状態の自分が妖精に近付いたら逃げられるか、もしくは悪い影響が出るんじゃないかと危惧した…………が、



『……妖精て鈍いの?』

「?」



ふよふよと周りを飛んで癒しの粉を振りまいてくれる彼らのサービス精神にある意味泣けた。
そういえばナビィも何も反応しなかったな……。こいつらもしかしたらガノンドロフでも癒すのか?
妖精に群がられるガノン……うわぁ。

手と脚に多めに振りまく妖精に鈍いのか鋭いのかよく分からなくなった。



(あとでフロルに聞いたら「そんなことあるわけないじゃない」とさも当たり前のように言われたのでこちらが何もしなけりゃ平気……らしい)






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あきゅろす。
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