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それは身を焦がすような






『ごめん……、ごめんなさい……。

ヴァル………恨んでくれて構わないから……っ』



精いっぱい吐き出した声。
これ以上無理やり空気を出せば血が出るんじゃないかと言うほどに小さく、誰にも聞こえないように嗚咽と共に絞り出した。


結果は、暴れ回るヴァルバジアをリンクのマスターソードで胸を突いた。

しかし、止めが甘かったようで血を流しながら静かに命が絶えるのを待つばかりとなった。
リンクは止めは刺せないと後退るように離れたその場から動かず、自分はふらりとリンクの横を通り過ぎてヴァルバジアの元へとしゃがんだ。
片手にはナイフを持っていたが、突き立てるという行動へ移そうとするとあり得ないほどに手が震えて何も出来ずにいた。



死に際になって正気に戻ったのか、うわ言のようにリンクとナビィの名前を呼ぶかつての仔竜に余計に胸が苦しくなる。
あまりの苦しさと痛みに心臓を掻き乱したくなるほどだ。


そこに“私”の名前は……ない。

当たり前だ。

今更謝罪なんて言えない。

こうしなければ物語が進まないからなんてただの見殺しの言い訳じゃないか。

今更…………言って何になるんだ。

それでも言わずにいられなかった。
自己満足のため……だ。
自然と口から言葉が漏れてた。



『だって……、俺は…、…っ!!』



見殺しにした。
リンクが神殿の封印を解くためならと。仕方が無いことだと。

7年前のあの頃で確証はなくとも無理やりにでも探し出して一緒に連れて行けば良かった!
……そうすればきっと何か変わったかもしれないのに。



ふと、宙を彷徨っていたヴァルバジアの視線が自分と交わる。
その二対の瞳からは一筋の悲しみが零れ落ちていた。

竜だとは程遠いほどに無垢な瞳がこちらを映す。
まるで猫のように小さく擦り寄りながら呟いた言葉に目を見開いた。



「……ねえちゃ、ユキセ……ねえちゃ……」




小さく、か細い声が愛称と名前を呼ぶ。
優しげなその瞳に捉われて、逸らしたくとも目が離せない。喉から出そうな何かの言葉も出てきそうで出てこない。
爬虫類独特の縦長の瞳も今は柔らかい。



「ねぇ、ちゃ……、…な…かないで………ありがと……う……」




そして静かに、ヴァルバジアという竜は灰へと還った。
煩い地鳴りもそれから静かに止んだ。

全て、元通り。



ステージクリア。



* * * * *



自分は何が出来ただろうか。


自分は何も出来ないのだろうか。




『……こいつを倒せばいいんだな?』

「そう、神殿を管理する魔物。
ずっとここを管理していたからなかなか強いわよ。
倒せば管理はソウマへと移行するわ」



素早い動きでなかなか剣が届かない。
炎を操る案山子(かかし)のような魔物、フレアダンサー。



ヴァルバジアを倒したことにより賢者は封印を解かれ、賢者の封印を解いた証として賢者の間にてメダルを貰っている筈だろう。
その時自分はそばにいなかったから、けれどゲーム通りならきっとそうだ。

そしてもう一つ、やることがあった。





この力、元はといえばこの力は精霊石が与えてくれたものだ。
精霊石を手に入れる度に自分の身体の中に吸い込まれていったあの小さな光、あれがそうだとフロルが教えてくれた。

何も力のない自分が力が欲しいと願った時、
精霊石が自らの力を分けたのだろうと。
これを聞いた時、よくあるファンタジックな物語みたいだと思った。

願えばくれるだなんて。
今思えばなんて都合が良いのだろう。
まあこちらにも都合が良かったのでありがたかった。


しかしふとした所でガノンドロフの力までもが入り込み精霊石の力を汚染してしまった。
もはやそれは精霊の力ではなく、毒であり魔物と同じようなものだ。
そんな力に自分は耐えきれないようで、まるで呪いのように使おうが使うまいが少しずつ命を削っている。

神殿には封印を守る魔物がいる。
それを倒せば管理は自分へと移行し、神殿に力を送る。
そうすれば元からある神殿に籠められし賢者の力で汚染された力は浄化される。
浄化した力は枯れ果てたこの世界を再び蘇らせる力へと変わる。

フロルがそう考えてくれた。


けれど今はデスマウンテンで魔力を使ってドラゴンの姿になったことで魔力の残量が少ない。
けれど少しでも世界のためになるなら、その方が良い。

フロルに進言すればしばらく悩みあぐねたあと、
森の神殿はすでにリンクが倒してしまったため(それにあそこはガノンの影が既に乗っ取っていた)炎の神殿に来た。

実質フレアダンサーがゲームで言うこの神殿のボス的立ち位置となる。



『悪いけれど、世界の再生の手助けとなる為に……そこから退(しりぞ)いて貰うよ』



だいぶ痛めつけた為あと一撃で片をつける。
剣を構え、一呼吸置く。
フレアダンサーはくるくると高速回転しながら炎の渦となってこちらへ向かって来た。
剣にありったけの力を溜めて、



『はあああっ!!』



一気に横へ薙いだ。攻撃を受け
小さくなったフレアダンサーは可愛いが容赦はしない。
ちょこまかと動き回るため剣ではすべてを直ぐには叩き辛い。



『永遠の眠りへ誘う冬の息吹よ……!!』



解き放ったいくつもの氷の塊がフレアダンサーを襲った。
反対に位置する属性に耐えきれず光となり、幾つもの光が収束し弾かれた。

これで神殿を守る者は自分、となった訳だ。


また剣へと自分の力を溜める。
ある程度まで溜めたら剣を天井へと掲げた。

そこから三原色に闇色のオーラが混じった光が四方へと飛び、消えた。
汚染された力は浄化され、生命の息吹きへと変わる。
少し、神殿の気配が変わった気がした。



「これで神殿の力で浄化できるわ……。

ユキセ!?」



フロルが驚いた声を上げてこちらに寄って来る。
肩で息をしながらなんとか手を床に付いて耐えている状態の自分に慌てていた。
気が遠くなるような感覚に辛うじて意識を繋ぎ止めていた。
正直、辛い。


「一気に消費し過ぎよ!
前の戦いの時にも沢山消費してるし!

やっぱり無理だったのよ……!あなたの力は……」

『いい、いいんだよ。
正直、……これが正しいのかも分からない。
けどやらないより、やった……方が………』



よろめく身体に視界がぐるりと回った。ああ、駄目……こんなところで倒れたらリンクにたどり着けない……。

視界に入ったのは泣きそうなフロルと……


もう一人……金の……。









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あきゅろす。
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