“やさしき”子竜
「ヴァル……ヴァルバジア……!
思い出してくれ……!!」
悲痛に懇願するように叫ぶ声。
しかし、青白く発するその瞳に何も響くことはなかった。
いよいよデスマウンテンの噴火も目前と迫っており、ヴァルバジアが暴れる空間へと赴いた。
今のヴァルバジアは精霊の弓でなら仕留めることが可能だろう。
噴火に力を使い過ぎて疲弊しているようだ。
『今なら仕留められる……心の準備は?』
「……ああ」
『そう……俺も援護する。魔術なら少しだけ扱えるからな。
……ごめんな』
「……ありがとう」
岩陰から出て攻撃出来る範囲まで走って近づいた。
こちらの気配に気付いたヴァルバジアはこちらに向かってきた。口元から炎の息が漏れている。こちらに放とうとしてるのだろう。
瞬時に剣を引き抜いて地面に突き立て、祈るように囁く。
自らに宿る魔力を言葉でイメージして、形作る。
『……強固なる光の壁よ』
手から剣へ、魔力の波動が地面へと伝わりやがて光の膜が貼られた。
そして次の瞬間、辺りは炎の海になった。
ミラーシールドでもあればこんな炎でも跳ね返せるんだろうけど生憎終盤までいかないとあれはない。
熱まではこちらに多少影響するようで、じりじりと皮膚が焼かれる。
熱で服までもが燃えそうだ。
「凄い……」
炎の勢いを間近で見たからか背後に息を飲む音が聞こえ、炎が止んだ直後リンクに指示を出した。
『今だ!』
風を切る甲高い音が耳元を通り過ぎ、妖精の光を灯した矢が一直線に向かっていった。
それをただ見てた。
* * * * *
「ねえ、」
ただっ広い草原を歩き続けるなか、リンクが声を挙げる。
「魔物ってさ、オレ達を襲ってくる生き物なんだろ?」
『まあ、そうだね。この世界には襲って来る魔物がいるから』
「……じゃあ、ヴァルもいつか魔物の枠の中に入っちゃうかなぁ」
その問いを聞いて足を止めた。
前を歩くリンクの表情はわからないが、きっと物憂げな表情をしてるのだろう。
小さな仔竜を脳裏に浮かべた。
僅かな間だが共に歩いた小さな、ヒトの言葉を理解する竜。
今は懐いていても、成長したら人を襲うのだろうか……。
この世界はハイラル人の様な……この世界では普通の人種もいれば、ゾーラ族やゴロン族といったいわゆる亜人もヒト社会に入り混じっている。
魔物と彼等の違いとは、やはり人が決めた物差し――つまり襲うか襲わないかなのだろう。
『どうなんだろう。あの子が一度でも誰かを襲ったなら、魔物と言われてしまうんじゃないかなぁ』
「でも、もし良いことしたらどうなの?」
『……それでも魔物として恐れられちゃうんじゃないかな』
人は良いことよりも、悪いところを見ちゃうから。
そう言えばふうんとあまり分かってないような感じだった。わからないなら、それでいいと思う。
姿が異形なだけでも
それよりも大きく上回るような良いことをしないと……塵も積もれば山となるように少しずつ良いことをしたりとか。
要は認めてもらうこと。
けれど、異形の姿をした生き物が認めてもらうというのはとても大変なことなのだろう。
「ナビィはどう思う?」
《うーん……よく分からないけれど、コキリの森に住む魔物にも人を襲おうとする意思があるのとないのがいたから魔物一匹見てそうだ!とは決めつけられないワ……》
『けれど、ヴァルはきっと優しい魔物になってくれるよ。嬉しいことがあったら笑い、悲しいことがあったら涙を流せるような……優しい魔物に。
そう願おう』
「……そうだね!ヒドい魔物にならないように……そんな世界にならないように俺達旅してるんだもんね!」
《なら地図を逆さまに読んでないで早く次の精霊石見つけないとネー》
「ただ見間違えただけだって言っただろ!?」
『……先が思いやられる』
それは願い。
あのドラゴンが立派に生きていけるように。
どうか、自分が画面の向こう側で見た未来の通りにならないようにと
小さく願った、リンク達と旅をしてから三ヶ月経ったハイラル草原。
少し風が強く、むわっとした土の匂いがした日だった。
『魔物として生まれることが変えられないなら……努力によって内にある魔に抗うか、優しさを持って生まれるか、どちらが良いんだろうね』
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