リクエスト
星屑コンペイトウ1/ショタ×子狐(擬人化):アマアマ


 空には満点のお星さま。
 キラキラ光って。とても綺麗です。

「ねぇねぇ。お母さん。お星さまはどうしてお空から落っこちてこないの?」

 今年で6歳になる太郎クンはお空を見上げて、言いました。

「お星さまはね、本当はとても遠い“宇宙”と云う所に有るのよ。だからあの光は、お星さまの全てではないの」

 太郎クンのお母さんは優しい口調で、とても難しいお話をしました。

「ふ〜ん?」

 分かった様な、分からない様な。太郎クンは微妙な心境で首を捻ります。

「じゃあ。宇宙に行けば、お星さまがもっと大きく見られるの?」
「ええ。そうね。探索だって出来るわ」
「わぁ!」

 それは素敵な光景です。
 太郎クンは大きな瞳をキラキラ輝かせました。

「ぼくも行ける?」
「沢山お勉強して。宇宙飛行士に成れば行けるわよ」

 厳しい道のりを、サラッと告げるお母さん。
 しかし太郎クンは純粋無垢な“良い子”なので、アッサリ信じてしまいました。
 現在の『成りたいものランキング』は、サッカー選手を抜いて宇宙飛行士が堂々の1位です。

「やったー!」

 飛び跳ねて喜ぶ太郎クン。浴衣の袖もヒラヒラ揺れます。

「けれど今夜はお祭りへ行きましょう。太郎も楽しみにしていたでしょう」
「うん!」

 太郎クンは元気よく頷くと、そのまま駆け出しました。お祭り会場の神社へ向かったのです。

「あらあら。独りで行くと、迷子になってしまうわよ」

 お母さんも太郎クンの後を追い掛けます。
 朱色の下駄がカラコロ鳴って、とても風流です。




 ◆◆◆




 その頃森では、一匹の子狐クンがピョンピョン飛び跳ねていました。

「ねぇねぇ。お母さん。ボクもお祭りに行きたいな」

 小毬の様に小さく可愛らしい子狐クンは、お祭りに興味津々。ですが、狐のお母さんは許してくれません。

「駄目よ。アレは人間のお祭りだもの。森の動物は行けないわ」
「どうして、どうして?」

 子狐クン飛び跳ねながら、聞きます。
 風に乗って流れて来る太鼓の音は力強く。まるで子狐クンを呼んでいるようでは有りませんか。

「人間だって、ボク達と同じ動物でしょ」
「いいえ。違うわ。人間はね、とても怖い生き物なの。一度捕まったら、もうお母さんの所へは帰って来れないのよ」

 狐のお母さんが真剣な顔で言い聞かせます。
 すると子狐クンは飛び跳ねるのを止めました。
 大好きなお母さんと離れ離れは嫌なのです。

「でもやっぱり、気になるな」

 子狐クンの両肩がシュンと萎みます。力の抜けた前足で地面に無意味な円を描く姿もしょんぼりです。

「仕方のない坊やね」

 狐のお母さんは困り顔で溜息を吐きました。

「好奇心旺盛なのは悪い事ではないけれど」

 これも雄の冒険心でしょうか。子狐クンのお姉さん達は一度も、『人間の里へ下りたい』なんて言いだした事は有りません。
 ご先祖様から受け継いだ『変身能力』も、最近では宝の持ち腐れ状態なのです。
 思えば子狐クンだけが、熱心に取り組んでおりました。
 若しかしたら子狐クンは、自分の力量を試したいのでしょうか。狐のお母さんはふと思います。

「浴衣も下駄も、頑張って出せるようになったのに、な」

 やっぱり。
 子狐クンの独り言を聞いた狐のお母さんは得心します。
 ならば、母親としての道は一つ。
 狐のお母さんは覚悟を決めます。

「今夜だけ、特別よ」
「え?」

 子狐クンの大きな瞳がパチクリ瞬きます。

「でも、坊や独りは駄目。お母さんも一緒に行くわ」

 狐のお母さんの言葉に、子狐クンの顔が見る見る輝きます。

「やったー! お母さんありがとう!!」

 ピョーン。
 子狐クンは大きく飛び上がって、狐のお母さんに感謝を伝えました。




 ◆◆◆




「わーわぁー。夜なのに、ピカピカだね」

 一方コチラは太郎クン。
 幼い瞳をキラキラ輝かせて、ピョンピョン飛び跳ねています。
 眼前の光景は太陽の居ない昼間。提灯の灯りが神社の境内を明るく照らしています。
 賑やかな屋台の駆け声も、リズミカルな太鼓の音色も。みんなみんな、太郎クンの気分を楽しくさせます。

「ほら、太郎。此処からはお母さんと手を繋ぐのよ」
「うん」

 太郎クンは力強く頷いて、お母さんと手を繋ぎました。
 黒山の人だかりへ突入します。

「焼きそばにお好み焼き。太郎は何が食べたいかしら?」

 お母さんが食べ物屋台を物色しつつ問います。
 盆踊り前の腹ごしらえ。腹が減っては踊りのキレも鈍ってしまいます、からね。

「たこ焼き!」

 鼻先を掠めるソースの匂いが香ばしくて、太郎クンのお腹はグーと鳴りました。
 屋台の看板に描かれたタコさんも、楽しそうに笑っています。

「あと、かき氷と綿菓子とベビーカステラと」
「あらあら。甘いモノばかりね」

 お母さんが「ふふ」と微笑みます。太郎クンは甘いお菓子が大好きなのです。

「でも、デザートは後よ。先ずはたこ焼きと……そうね、焼きトウモロコシを買いに行きましょう」
「それはお野菜の名前だね」

 太郎クンの眉間に皺が寄ります。
 甘いお菓子は大好きですが、苦いお野菜は苦手なのです。

「ええ。栄養満点のお野菜よ。太郎の体を強くしてくれるわ」
「む〜」

 太郎クンは唇を尖らせました。せめてもの抵抗です。が、お母さんは聞き入れてくれません。
 焼きトウモロコシの屋台へ意気揚々と向かいます。




 数分後。太郎クンの前には熱々のたこ焼きと焼きトウモロコシが並べられました。

「はい。いただきます」

 お母さんが両手を合わせます。太郎クンも渋々両手を合わせました。
 そしてお母さんと同じように「いただきます」をして、たこ焼きへ手を伸ばします。

「あふっあふっあふっ」

 口を大きく開けて頬張ると、大ぶりのタコが口内で熱々のダンスを踊りました。
 呑み込む様に喉の奥へ流し込み、空っぽの胃の中へ納めます。

「おいしー!」

 続いて二個、三個と休みなく頬張る太郎クン。子供らしいぷくぷくの頬っぺたに、たこ焼きソースが付いてしまっています。

「あらあら。太郎ったら、ワイルドね」

 お母さんはカゴ巾着の口元を緩め、中からポケットティッシュを取り出しました。ティッシュを一枚引き出して、太郎クンの頬っぺたと口許を順に拭います。

「さあ。次は焼きトウモロコシの番よ」

 ニッコリ笑顔で言うお母さん。

「う……っ」

 太郎クンの喉が反射的に詰まります。
 しかし真っ黄色の粒がギッシリ詰まった焼きトウモロコシは醤油の香ばしい匂いを鼻先に届け、太郎クンの食欲を刺激しました。
 正直、とても美味しそうです。

「ほら、トウモロコシは甘いお野菜なのよ」
「え? そうなの」

 太郎クンの警戒心が緩みます。と、同時に口内で唾液が溢れてきました。
 思い切って両手を伸ばして、焼きトウモロコシへ齧り付きます。粒の一つ一つがプチプチ弾けて、ジューシーな甘みが口内に広がります。

「美味しい」

 太郎クンは素直にそう思いました。

「良かったわ。これで宇宙飛行士にも一歩近付けたわね」
「本当?」
「ええ。今、太郎の体の中ではトウモロコシさんが元気に必要な栄養を注いでいるの。きっと将来は立派な大人になれるわ」

 お母さんは持ち上げ上手です。太郎クンはすっかりその気になって、焼きトウモロコシを一気に平らげました。
 お腹もすっかり満腹です。

「はい。良い子の太郎には、ご褒美をあげる」

 お母さんはカゴ巾着の口元を再び緩めると、小瓶を一つ取り出しました。

「お星さま!?」

 驚く太郎クン。
 なんと色とりどりのお星さまが、小瓶の中に詰っていたのです。

「うふふ。違うわ。これは金平糖(こんぺいとう)と云うの。とても甘いお菓子よ」

 お母さんは優しく微笑んで、太郎クンの両手に小瓶を握らせてくれました。

「コンペイト……ウ?」

 キョトンとする太郎クン。
 両手を高く上げて、夜空に輝く星々とコンペイトウを見比べます。
 遠いお星さまは針の先程小さくて。
 狭く透明な空間に集められたコンペイトウは自ら光を発していません。
 確かに別の存在。
 けれど太郎クンの目には、よく似たモノに見えます。
 ドチラも素敵なモノに見えます。

「キレイだね。お星さまから出来ているの?」
「だったら、素敵ね。けれど金平糖はお砂糖で出来ているのよ」
「わぁ! すごいね」

 素直に感動する太郎クン。大きく純粋な瞳もキラキラです。

「ぼく、コンペイトウ大好き」

 太郎クンはコンペイトウの小瓶を抱き締めました。




 ◆◆◆




「お母さーん。何処に居るの?」

 男の子が独り、力なく歩いています。
 お母さんと一緒にお祭りへ来て、逸れてしまったのです。
 稲穂色の長い髪を後ろで一つに纏めたポニーテールも元気が有りません。

「ボクがワガママを言ったから。罰が当たってしまったの?」

 縦長の瞳孔が神秘的な男の子。人間離れした容貌を持つ彼は、本物の人間では有りません。
 山奥の森でピョンピョン飛び跳ねていた子狐クンなのです。
 彼の周囲には沢山の人間が居ました。が、誰も子狐クンを気にかけていません。みんなみんな踊りに夢中で、一筋の涙も見えないのです。

「もう、お母さんと会えないのかな……」

 不安で一杯の子狐クン。濡れそぼった目尻を手の甲で拭います。

「ねぇ、キミ。どうしたの?」

 ふと呼び声がして、子狐クンは振り向きました。
 同い年位に見える男の子が一人。踊りの輪を外れて、子狐クンの傍までパタパタ駆けて来ます。

「あ、あの……ボク」

 反射的に一歩後退する子狐クン。実は本物の人間と話した事がないのです。
 自分の変身能力は低くないか。
 可笑しな部分はないか。
 迷子とは別の不安が足下から競り上がって来ます。

「もしかして、迷子?」
「……ん」

 子狐クンは深く俯いて、小さく頷きました。

「ぼくは太郎。キミの名前は?」

 人懐っこい笑顔と自己紹介。
 そう、子狐クンに声をかけたのは太郎クンだったのです。

「……キツネ」

 蚊の鳴くような小さな声で、子狐クンは応えました。
 太郎クンは誰もが認める良い子です。が、初対面の子狐クンは知る由も有りません。

(ボク……この子に捕まって、お鍋の具にされるのかな)

 そう思うと、足が震えてしまいます。
 勇敢な雄への道のりは遠く。子狐クンは己の弱さを痛感しました。

「そっか。キツネくんはお母さんと来たの?」

 けれど太郎クンは笑顔を崩さず、お兄さんの顔を見せます。

「う、うん……」

 子狐クンは少しだけ顔を上げました。
 背格好は殆ど同じ。けれど種族の壁が子狐クンの前に大きく立ちはだかります。



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