ジルとベル―美しい双子が愛した罪―
愛し合う双子は罪ですか?2


「おかしいだろう。雄同士の交配なんて、自然界では有り触れたモノなのに」

 長細い腕を健康的な肩へ伸ばし、スルリと抱き締める。

「ヒトだけがソレを罪と呼んで、罰を与える」

 触れ合う素肌は温かく。互いへの愛情が溶け合う。
 罪と呼ぶには美し過ぎる姿だ。

「不安がらないで。僕の大好きな、ジル」

 細い指と指が赤い糸のように絡まる。
 ジルと呼ばれた少年が伏せた瞼を開けると、彼の愛しい少年が徐に振り向く。

「ベル」

 そっと呟くジル。
 鏡に映る自分を慈しむように、二人の視線が交差する。
 ジルとベル。二人は頭の天辺から足の爪先まで同等の存在。
 異なる要素は性格くらいだった。
 見分けられるのはお互いだけ。血を分けた家族も、正確には判別できない。
 二人は双子の兄弟。
 ジルが兄で、ベルが弟だ。

「罪の雨が生涯降り続くとも、俺と共に濡れてくれるかい?」

 シトシトと、窓の外で雨が降る。雨音は途切れる事無く、前日の昼間から続いている。
 鬱陶しい長雨。
 気分が必要以上に深く沈む。

「禁断の果実を齧ったのは二人同時」

 ベルの掌がジルの頬を優しく撫でる。

「ジルだけに、罪を背負わせはしない。僕達は愛の共犯者だ」

 ベルが体勢を変え、ジルと正面から向い合う。
 薄闇の中でひらめく丹花の唇は年齢以上の色香を纏っていた。
 甘美な熱情が躰の奥で目を覚ます。

「だから、甘いキスを贈っておくれ。恋人としての甘いキスを」
「ああ。ベルが望むなら、百万回でも一億回でも」

 二人は同時に身を寄せ、唇を深く重ねた。
 熟れた木苺を含んだように口内が甘く蕩ける。
 招かれた舌を淫らに絡めると、ベルが甘い吐息を零す。

「ア、ふ……ゥン」

 痺れる。
 堪らない。
 ジルはベル以上に愛しい存在を知らない。
 知ろうとも思わないが。

「ベル……ベル。俺の愛しいベル」

 息継ぎの合間も愛を囁くジル。
 壊れ果てた道徳心が夜闇の先に消える。
 滑らかな胸元を探り、双子の粒を片方摘まむ。

「アッンン……!」

 ベルの肩がビクンと揺れる。
 弾みで離れた唇の代りに、細い銀糸が二人を繋ぐ。
 嗚呼――なんて甘美な罪の味。

「可愛いよ。ベル」

 耳許へそっと囁く。
 もう片方の粒も指先で転がし、快楽を引き出す。

「もっと啼いて、俺の理性を壊しておくれ――修復出来ない程粉々に、無茶苦茶に」

 ジルはベルの肩に顔を埋め、首筋をソロソロと舐めた。

「いいよ。僕の心も躰も魂も、すべてジルのものだ」

 擽ったそうに身を捩るベルがジルの背中へ腕を回す。

「それは俺も同じだよ。ベル。俺のすべてはベルのものだ」

 熱い舌を下へ滑らせ、可愛い粒をヌルリと舐める。
 そのまま口内へ含み、厭らしく転がす。

「アッアッ……ジル……ぅ」

 ベルの心音が響く。
 頼りない指先が背筋を這う。

「背中が擽ったいよ」

 唇を離し、からかい交じりに囁くジル。

「そんなに感じた?」

 チュッと音を立て、ピンと勃つ粒に口付ける。

「う、ん。ジルにされるの好き、だから……」

 恥ずかしそうに頬を染めるベル。
 生理的な涙で潤む瞳も欲望の炎が煌々と燈っていた。

「勿論、触るのも」

 ベルが再び態勢を変え、ジルの視界が反転する。
 真っ暗な天井と妖艶なボディーライン。
 ベッドの上で花咲くベルの艶姿は、ジルの前でのみ開花するものだ。

「なに、反撃開始?」

 ドキドキと高鳴る心音を聞きながら、冗談めかすジル。
 全身が熱く。一塊の心臓に成ったようだ。

「ふふ。そうだよ」

 悪戯っ子っぽく微笑むベル。

「僕も大好きなジルを気持ち好くしたい」

 そう言うとジルの粒をチロチロと舐め出す。

「ァ、ベル……ン」

 快楽の波が脳に押し寄せる。
 子猫が戯れ付くような愛撫は擽ったく。自分が同じ行為をしたのかと思うと、興奮が高まる。

「んっ……ちゅっぱ……ジル、ジルぅ」

 夢中で吸い付くベル。まるで母乳を求める赤ちゃんだ。
 けれど男の躰は別の場所からミルクを流す。

「アア、ベル……っ。そろそろ下も可愛がりたいよ」

 両腕をベルの後ろへ回し、柔かなヒップラインを揉み解すジル。
 ついでに下半身を擦り付けて、興奮の証をベルへ教えた。

「アン!」

 堪らず口を離すベル。ジルの胸板へ崩れ落ちる。

「汗で吸い付く。それにベルの厭らしい場所も、もうヌルヌルだ」

 掌を前へ滑り込ませ、ベルの芯を包み込む。先蜜を流す芯はヌルヌルと滑り、ジルは上下に擦った。

「ずるい……ソコ、はアアッ……ダメ」

 快楽に沈んだベルの涙がジルの素肌を濡らす。
 ポタポタ、と。
 ポタポタ、と。
 愛しい雨が降る。
 例え永遠の太陽を手に入れても、ベルがいないと干からびてしまう。

「どうして。いや?」

 ジルはベルの腰へ両腕を回し、上半身を彼事起こす。

「ン、ア」

 愛撫を中断された芯がピクピクと名残惜しそうに震えた。
 ジルは見ないふりをして、ベルの顔を覗き込む。

「痛いコトはしないよ。今夜は触るだけ」

 明日も授業があるしね。
 ジルはそう言って、真っ赤な頬に口付ける。
 涙の味がしょっぱく甘い。

「違う……僕も、」

 ベルが首を横に振る。
 ジルは「ああ」と、納得した。

「ジルを同じくらい気持ち好くしたい」
「でもココを触られると、先に気持ち好くなってしまう?」

 ベルの言葉を継ぐジル。
 人差し指を芯の先端へ伸ばし、右回りに円を描く。

「ンンッ!」
「本当にベルは可愛いな」

 そそり立つ芯は欲望を解放したくて、ウズウズしている。
 ベルの抵抗も風前の灯火だ。

「君の熱い雨で、もっと俺を濡らしてよ」

 ジルは五本の指を下へ伸ばし、根元の果実をやわやわと揉む。
 腰に回していた掌も滑らせ、芯への愛撫を再開した。
 卑猥な水音がクチュクチュ響く。

「ジル、ジル……あぁああ」

 限界を訴える芯がビクビクと震え、ベルの体内から白濁液が飛び出す。
 ソレは勢いを保ったままジルの腹へ掛り、ドロリと穢した。

「ハァハァ……ジルぅ」

 ベルが荒い呼吸を繰り返す。

「ごめん。今度はベルの番だから」

 力をなくしたベルの芯から両手を離すと、お礼を伝えるように首を垂れた。
 それがなんだか可笑しくて、ジルは口角を上げる。

「僕は一緒がよかった」

 ぷくー、と。拗ねたベルの頬が膨らむ。
 可愛いだけだが。

「けれど俺は、ベルの可愛く善がる声が沢山聞きたい」

 なんでも平等に分け合ってきた双子。
 オヤツのビスケットが一枚余れば、真ん中から二つに割り。
 お休みのキスも交互に一回ずつ。
 それが恋人の立場では少し違う。
 夜の主導権を握るのはジルで、ベルは与えられる快楽に溺れる側なのだ。
 ベルも男で有る以上、それが不満らしい。

「……っ。恥ずかしい、よ」

 俯くベル。
 耳先まで真っ赤だ。
 これだからジルは必要以上にベルを可愛がる。

(もう一度甘いキスを贈ろうか)

 そんな事を考えていると、ベルが身を沈めた。

「僕もジルの気持ち好い声……沢山聞きたいのに」
「ア……クッ」

 熱い塊がジルの芯に纏わり付く。ベルの舌だ。

「ふふ。僕の番だよ。覚悟して」

 ベルが嬉しそうに顔を上げ、ジルの瞳を見詰める。
 テラテラと光る唇がとてもエロティックだ。
 ベルの奉仕は熱心で、舌も指も蕩けそうに熱い。

「ベル……ア、俺も……ぅ」

 ドックン。ドックン。
 体内の熱が急速に高まる。
 欲望が出口を求めて競上がり、ジルはソレを体外へ放った。




 ◆◆◆




 鬱陶しい長雨は太陽の目覚めと共に姿を消した。
 小鳥が風に乗って移動する雲の中を飛び回る。
 チュンチュンチュチュチュ、と元気一杯だ。

「ほら、目覚めの時間だよ。ベル」

 カーテンを勢いよく開け、朝陽を招く。
 空気の入れ替えに窓も開けると、心地良い初夏の風が頬を撫ぜた。

「……ん〜?」

 ベルの瞼が重そうに開く。
 一方ジルは身支度を整え、弟の起床をベッドの横で待っていた。

「おはようのキスは?」

 寝惚け眼のまま訪ねるベル。
 ジルは腰を下ろし、目線を合わせた。

「ベルが今すぐ起きられたら、な」

 ふわり、と。兄の顔で微笑む。

「唇に?」

 ベルの口が不満そうに尖る。

「……頬に。飛び切り優しく」

 奪ってしまいたい衝動を抑え、ジルはベルの頭をサラリと撫でた。
 恋人の時間は短い。世界が寝静まる夜中だけだ。

「甘さはないの?」

 ベルが指を伸ばし、ジルの頬をツンツン小突く。

「それはベル次第」

 髪の流れに沿って掌を滑らせるジル。
 ベルの頬まで行き着くと、同じ戯れを返した。

「意地悪だね――兄さん」

 ベルが指を引っ込める。
 ボンヤリした眠気も打ち消して、スクリと起き上がった。

「うん」

 ジルの掌も自然と落ちる。

「まるで永遠の片想いをしているようだね」

 愛しい温もりが残る掌を引き寄せて、秘密の口付けをそっと贈る。
 砂糖菓子よりも甘く。
 ベルの唇を愛するように。
 最も自分の皮膚では代替品にもならないが。

「両想いに成るまで後12時間以上も有る」

 ベルが同意を返す。
 ベッドも下り、ジルの横へ並んだ。

「……ん」

 おはようのキスを交互に贈る。
 頬に触れるだけのキスは一瞬で終わった。

「兄弟としてのキスは難しいね。心臓が自然と跳ねてしまう」

 ベルの吐息が頬に掛る。
 甘くて、熱い。
 恋の欠片。
 抱き締めそうに、なる。

「それは俺も同じだよ。夜の訪れを今か今かと待ち侘びている」

 ジルは己の衝動を叱咤して、窓の外を見上げた。
 四角形に切り取られた空は狭く。
 不自由な箱の中に閉じ込められているようだった。




 嗚呼――神よ。
 愛し合う双子は罪ですか?




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