初恋は桜の中で:番外編
初めての姫始め/一夜×椿


 12月31日。午後:11時50分。
 一年の終りと、始まり。それを教える除夜の鐘が、澄んだ空気を肌に届ける。
 厳かな神社は活気に溢れ、詰めかける人の波が賑わいを盛り上げていた。

「手、繋ごうか。逸れないように」
「はい」

 苦手意識の強い人込み。一夜の足が無意識に歩行速度を緩める。椿がその変化に気付き、掌を差し出した。
 繋いだ掌から伝わる椿の愛情。一夜の苦手意識はそれに清められたように、スーと軽くなる。それを合図に、一夜と椿は絶え間なく流れる人間の波間を再び歩み始めた。

「ふふ。こんな時間に“デート”するのは、初めてだな」
「そうですね」

 美しい花が綻ぶ。椿の美貌は何千何百という人間の中でも、一際異彩を放っている。
 けれどその瞳も、心も、『雪白椿』という少年を構成するすべては一夜のもの。
 椿の美しさに見惚れているだけの人間では、花が綻ぶような微笑みさえも引き出せないのだ。

「おい! スゲー美人がいるぞ」
「ウオ! あ〜、なんだよ。連れいんじゃん」
「え〜。あれ、弟じゃねーの?」

 中性的な美貌の少年へと注がれる好奇の視線。それも氷の城壁に阻まれ、椿の心に届く事はない。
 加えて一夜の存在が、何人も踏み込めない聖域を創り出している。ギャラリーはただ、各々の感想を空気に溶かすだけで終わっていた。




「――でも、よかったのか?」
「はい。椿と一緒なら、俺は大丈夫ですから」

 一夜は椿の瞳を真直に見詰め、想いを伝える。
 椿は最初、初詣の時期をずらそうと言っていた。それは人込みが苦手な一夜を思っての言葉。現に今までは、最も賑わう三箇日を避けて行っていたのだ。
 けれど今年は、例年までと状況が変わっている。

『愛しい恋人と、一年の始まりを迎えたい』

 それが、一夜と椿の共通認識だった。
 無意識に歩みが鈍る、苦手な人込み。煩わしい他人からの好奇心。そんな感情を凌駕して、一夜と椿は二人の時間を選んだのだ。

「なら、尚更。逸れないようにしないとな」
「はい。離しません」

 繋いだ掌をギュッと握り締める。離れ離れにならないように、迷子にならないように。一夜と椿は愛情を強く繋げた。

「ふふ。僕も一夜と繋いだ手は、絶対に離さない」
「椿」

 一夜の頬がホワリと温かくなる。真冬の冷気も吹き飛ばすほど、椿の存在は一夜の心を幸せ色に染めてしまう。
 幸せの青い鳥が実は近くに居たように、一夜の運命のひとは近くに居たのだ。

「お参りしたら、おみくじも引こうな」
「はい」

 下駄をカラコロ転がし、朱色の鳥居をくぐる。神社特有の荘厳な空気が肺を清め。背筋が自然と引き締まった。
 参拝待ちの間に日付が変わり、何所からともなく歓声が上がる。年が明けたのだ。




 ◆◆◆




「疲れた?」
「はい。少し、疲れました」

 参拝も無事済ませ、神社での行事も堪能した。終始おしくらまんじゅう状態だった人波に、体は疲労を覚えている。椿は体力少ない一夜を心配して、それを問いかけたのだ。
 一夜は棒のような足を引きずり、自室の扉を開ける。因みに、椿は今日も一夜の家にお泊まりだ。

「ふぅ」

 一夜は羽織を脱ぎ、着物にも手を掛ける。部屋着に着替えて、椿とまどろみたい。
 脳裏にほわほわと未来図を浮かばせる一夜。その手を、椿の疑問が止める。

「――もう、着替えるのか?」
「ぇ?」
「ぁ、いや。よく似合っているから、勿体無いと思って」
「ッ!」

 椿は残念そうな眼差しを、一夜の着物姿に這わせた。骨抜きな惚気言葉だと分かっていても、一夜の心臓は高まってしまう。
 大切な親友から、愛し合う恋人同士へ。はじめて迎える年末年始。一夜と椿は折角だからと、着物を着て初詣に出掛けていたのだ。

「僕は駄目だな、一夜が休みたいと分かっているのに――つい、見惚れてしまった」

 そう言う椿の方こそ、しなやかな肢体に紫黒色の着物がよく似合っている。
 愛しい椿の艶姿と滑らかな雪頬に咲く照れ桜。一夜の疲労は、何処かへと吹き飛んでしまった。




「――ァ、一夜……ン、ふぁ」
「椿、んっ……つばき」

 照明を薄く落とした寝室に、衣擦れの音が響く。
 年が明けたばかりの深夜。一夜と椿は互いの躰を弄り、姫始めに雪崩れ込んでいた。

「一夜、疲れているのに、大丈夫か?」
「はい。今は――椿と、キスがしたいです」
「一夜――ぁ、んっ」

 一夜はベッドヘッドに背を付け、椿を膝の上に招く。クリスマス・イヴの時とは、逆の体勢だ。

「んっふ、……ちゅっ」
「ァン……ふぁ……ちゅく……」

 一夜は椿との口付けに酔い痴れながらも、白磁のような太股に掌を滑り込ませる。滑らかな雪肌は触り心地良く、掌に吸い付いた。

「椿の太股、滑々で……はぁ……ずっと、触っていたいです」
「あんっ……!」

 一夜は思わず、その感触に夢中になる。掌全体で撫で回し、時には指先で意味のない文字を書いた。
 普段着と異なる着物という装いにも、躰の奥から興奮が沸き上がる。着物の下からチラリと覗く、卯の花色の長襦袢も扇情的だ。

「一夜……も、やン……くすぐったい」

 椿は形の良い眉を切なく歪ませ、一夜の首筋に腕を絡める。甘い囀りが、鼓膜を妖艶に揺らした。

「もっと、ァッ……上も、触って――アン! 一夜、ハァン……一夜ぁ」
「っ、椿……俺の、も、擦れて――ァ!」

 甘い蜜夜の濃艶さを表すように、互いの着物は乱れている。開けた胸の生肌を、椿の可愛らしい粒が桜色に染めた。
 擦れ合う互いの粒。頭の芯が快楽の雷に撃たれたように痺れる。堪らず、一夜の唇からも艶かしい嬌声が漏れた。

「ふふ。一夜も、ここを弄られるの好い?」
「ぁぅ! つばきぃ……ッあ」

 勿論、鋭い椿がそれを見逃す筈がない。
 上下に擦り付けていた行為を止め。長く細い指を、一夜の粒に這わせた。グミをつぶすようにクニクニと弄られ、一夜の芯に熱が昇る。

「ァ……一夜の大きいの、ピクピクして――ッぁあん!」

 一夜の反応に頬を高揚させていた椿。けれどその余裕は突如として奪われた。欲望の脈動を感じた一夜に、主導権を奪い返されたのだ。

「ハァ、椿――ちゅぷ……ちゅぱッ」

 一夜の欲望を淫らに惹き出す小悪魔をシーツに縫い付け、ぷくりと膨らむ美味な粒を味わう。そして甘い花蜜に誘われた蝶のように、椿の芯に掌を這わせ夢中で頬張る。
 雄の本能に支配された一夜の瞳には、欲望の炎が宿っていた。

「ひゃぁん! 一夜……ァッ――あん、あンン!」

 口内でビクビクと震える芯をアイスキャンディーのように舐め上げ、椿の欲望を高める。一夜にしか食された事のない敏感な躰は、熱に浮かされ悩ましく鳴き続けた。
 ヒクヒクと疼く初々しい蕾は赤く綻び、開花の時を待っている。

「ァ、一夜、いちや……一緒に……ぃ」
「んっ……椿と、一緒に……」

 欲望の解放は目前。一夜と椿はきつく抱き締め合い、熱い白濁を溢れさせる。
 着飾った着物は脱ぎ去り、ベッドの下に小山を作った。

「一夜、愛してる――ァ、あぁああん!」
「俺も、椿を愛してる――ッアァア!」

 甘く蕩ける初めての姫始め。
 一夜と椿は初日の出が昇る頃まで、情熱を燃え上がらせていた。




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あきゅろす。
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