初恋は桜の中で
告白2
「卯月一夜です」
今日は珍しい日だと思った。天文部に人が尋ねて来たのだ。
「朝に会った子だよね」
桜架は今朝の記憶を脳裏に再生する。
桜子と同じ小学校に通っていたという、中性的な容姿の少年・椿と一緒に居た寡黙な少年だ。
「はい」
漆黒色の髪は夜の空色。
感情を忘れてしまったかの様な瞳は幼き日に時を留めていた。
けれどそれを今の桜架は知らない。
今現在、桜架の中の一夜は妹である桜子の友達(こう言うと桜子は、昔クラスメイトだっただけよ、と言うかも知れないけれど)の椿の友達という認識しかなかったからだ。
「桜架先輩」
一夜が口を開く。
それが二人の時間の始まりを告げる鐘の音だと桜架は知らない。
「はい。なんでしょう」
「貴方の、事が、…」
緊張しているのか一夜の声音が掠れているのが分かる。
一年しか歳が離れていないとは言え、やはり先輩に声をかけるというものは、勇気のいった行動なのだろう。
微かに染まる少年の頬の朱色が初々しくも可愛らしい、と桜架は心を和ませていた。
けれどその平穏な桜架の心の時間は、短かくも崩れてしまうのだった。
「――…好き……です」
「はい…?」
何を告げられたのか理解出来なくて、桜架の思考は一瞬止まる。
「ぁ、の…」
動揺しているのが、自分でも分かった。
「ほ、星が…?」
それが苦しい言い返しだとは、耳の先まで赤く染めている少年を見れば一目瞭然だ。
けれど、桜架の脳は必死にその感情≠ニは違う答えを探す。探してしまう。
「星を見るのは好きです」
でも、と。
一夜の薄い唇が動く。
その動きに桜架の心臓はドクリと音をたてた。
「桜架、先輩…」
「ッ!」
駄目だ。と、そう思うのに桜架の脳は、一夜が告げようとしている感情の名前を理解しようとしていた。
「貴方の微笑も、好きです」
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